かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
『にがくて、甘い』
 室内にはベッドサイドの淡い明かりが灯っていて、組み敷かれた私を見下ろしているのは、この世界で一番大嫌いな人。

 覚悟ならずっと前から決めていた。いつかはこんな日がくるんじゃないかと。でも、いざその瞬間がくると怖くなる。

 少しでも恐怖心を払拭するように、瞼をギュッと閉じる。だけど次の瞬間、大きな手が頬に触れた。
 びっくりして再び目を開ければ、薄暗い室内でもわかる彼の整った顔が間近にあった。

 気づけばそばにいるのが当たり前で、ずっと私の人生に関わってきた人。彼の顔なんてもう見飽きているのになぜだろう。妖艶で、男の子なのに色っぽくて、まるで別人のように見えるのは。

 私を見る目はいつもの冷ややかな目ではなくて、とびっきり甘い。私……こんな彼を知らない。
 お互い口には出さないけれど、私があなたを大嫌いなように、あなただって私のことなんて嫌いなはず。

 私たちはただ、将来一緒になる運命から逃れられないから、仕方なしにそばにいるだけだった。
 その証拠に彼の隣には、常に私以外の女の子がいる。これまでに何度目にして、その相手から牽制されてきただろうか。

 自分たちの意思など無視された関係。私なんて彼には不釣り合い。……そんなの、私が一番わかっている。
 それでも彼のそばを離れることを許されない自分の運命を、何度悔やんだか。

 だけどそれは、私だけではないはず。それなのにどうして彼は愛しそうに私を見つめているの?
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