かりそめ夫婦のはずが、溺甘な新婚生活が始まりました
『大好きな私の旦那様』
 都内にある創業明治二十五年のすき焼き屋。日本家屋の外観に、部屋は全室個室の風情ある佇まいになっていて、世界的にも有名なガイドブックに何度も掲載されるほどの名店。

 格式高い店で、誠司君と山浦さんと三人で私の歓迎会が行われていた。

 だけど入社前に想像していたような、和気あいあいとした雰囲気ではない。

 最初、場所を聞いた時はあまりの有名店で遠慮したものの、「こういった場所で会食するのはしょちゅうですので、荻原さんに慣れていただくことも兼ねております」と言われては、違うところでお願いしますとは言えなかった。

 中居さんが準備から調理まですべてやってくれるから、私たちがやることはない。仕事の話をしながら、すき焼きが出来上がるのを待つ。

「どうぞお召し上がりください」

 調理を終えると、中居さんが丁寧に頭を下げて部屋から出ていったと同時に緊張の糸が切れて、小さく息を漏らした。

「さて、すき焼きもできたし乾杯しようか」

「そうですね」

 こういった場所に慣れているのか、グラスを手に取ったふたりに数秒遅れて私も手にした。

「遅くなっちゃったけど小毬、ようこそ我が社へ。これから忙しくなると思うけど、よろしくね」

「私からもどうぞよろしくお願いいたします」

「はい、よろしくお願いします」
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