きみはやっぱり林檎の匂いがする。
あれからのふたり



煙が充満している焼き鳥屋。

カウンターには常連客が座り、座敷ではサラリーマンがすでに出来上がっていて、その隣では愚痴だけの女子会が開かれている。

そんな騒がしい店内で、俺たちはテーブルを挟んで向かい合わせで座っていた。


「たしかに私の夢はお嫁さんだったわ。でもこれから考えようとしてたとか、なにを今さら言ってんだって話なのよ」

きんきんに冷えたビールジョッキを片手に、綾子さんが鶏皮串を食べていた。


彼女と知り合ったのは半年前。

綾子さんが当時付き合っていた彼氏の浮気相手が俺であると勘違いして、その一件以来、俺たちは飲み友達になった。


「佑介さん、まだ未練あるみたいですよ」

俺も生ビールを口にする。


綾子さんの元カレ、佑介さんとの友人関係は続いている。

突然別れを告げられてしまったことで佑介さんの口から綾子さんの話をされることはあるけれど、俺から綾子さんの話をすることはない。

こうして飲み友達になっていることも、わざわざ言う必要はないので話していない。


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