死神列車は、記憶ゆき


全ての注意事項に目を通した後、私は小さく息を吐き出した。

この死神列車が存在したという事実だけでも充分にファンタジーだが、書いてある内容も通常ではあり得ないことだらけ。

到着した駅の改札の向こう側が別世界だとか、自分の見た目も過去通りに変化するだとか、未来を大きく変えようとすれば身体が勝手に制御されるだとか。未だに信じられなくて、私の心にもますます不安が募るばかりだ。

それに、私はこの後小夜と会う。

大好きな彼女を目の前にしても、果たして私は平常心を保って小夜と接することができるのだろうか。彼女の優しさに触れたが故に、取り乱して泣いてしまわないだろうか。

そう心配に思ったものの、すぐにその不安は打ち消された。

……それでいい。泣いても、以前のようになんの翳りもなく明るく振る舞うことができなくても、それでいいじゃないって思ったから。

だって、どうせもう後戻りはできないのだ。

死神列車に乗車することを決めたということは、自ら死を決意したのと同じこと。

だったら私は、小夜に感謝を伝えたい。

泣いてもいい。苦しくてもいい。胸が痛くたっていい。

この後小夜に会うのが最後だっていうなら、私はちゃんと、伝えたいんだ。

ありがとう、小夜、って、精一杯の感謝を込めて。

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