ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
Reina's eye ケース5:真夜中の出来事


【Reina's eye ケース5:真夜中の出来事 】



超音波検査を受けてから3日後の夜。
なかなか寝付けなかった私は薄暗い病棟内をふらふらと歩いていた。

ナースステーションの奥から聞こえてきたのは赤ちゃんの泣き声。

夜間のナースステーションで赤ちゃんを預かってくれるのは産後の母親の体を少しでも休ませてくれる時間を作るという配慮から。

私は看護師さんに抱き上げられてあやしてもらっている赤ちゃんの姿を遠巻きで立ち尽くしたままじっと眺めていた。


『あかちゃん・・・・』


今、私のお腹の中にいる赤ちゃんはまだこんな小さいのに
あんなに大きくなって産まれてくるんだ・・・

赤ちゃんなんて今まで何人も見たことあるのに、私は自分の中で育つ命に改めて不思議な感覚を覚えた。


今はこの子の事が凄く愛しいけれど
私、ひとりで
この子大丈夫かな・・・?

こんな夜でも赤ちゃんは泣いている
頭ではわかっていたことだけど
これが24時間、四六時中続くんだ

赤ちゃんの泣き声に
私が目を覚ませなかったら
私が気がつけなかったら
どうなるんだろう?


それだけじゃない
どんなものを食べさせてあげたらいいんだろう?
衣服は何を着させてあげればいいんだろう?
おむつ替え、上手くできるかな?

赤ちゃんが風邪ひいたら薬とかどうしたらいい?


次々と湧き上がってくる疑問とか心配事とか不安とか


それらの模範解答ってどこにあるの?
誰に習えばいいの?
それらがどうしてもわからない時
私、ひとりでどうしたらいいの?

頼れる人なんて誰もいないのに
どうしたらいいの?



そう心の中で呟いた瞬間に感じ取った、私の両肩がふわりとする感覚を感じた。
その直後。


立ち尽くしていた私の
両肩が
背中が

温かくて
そして
少し重い物を感じ取った。


『あの・・・・』


それは3日前に感じた ”包容力” という空気なんかではなく
読み方は同じでも意味がちょっと異なる
抱擁というものだった。


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