旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
○鷹の目の元許嫁

 ネットカフェの妙に細長い個室で、私はぼうっとパソコンを眺めていた。隆臣のマンションを飛び出したはいいものの、実家に帰る気にはなれないので、行くあてはこんな場所しかなかった。

 検索サイトに【御曹司 結婚】と打ち込み、ヒットした記事を黙々と読む。

「……やっぱり、選ばれる人はそれなりに育ちがよくて、才色兼備なわけよ」

 低い声で、ぼそりと呟く。目の前の画面には、実際に御曹司と呼ばれる肩書の男性を射止めた美女たちの写真や経歴がずらりと並んでいる。

 芸能人やモデル、女子アナ、バイオリニスト……容姿の美しさだけでなく、きらりと光る個性や魅力がある女性ばかりだ。

 隆臣の結婚相手だって、そういう女性がふさわしいに決まっている。一般的な家庭で育ち、大した学歴も一芸もないОLの私なんか、もともとお呼びじゃなかったんだよ……。

 大きく息をつき、百二十度の角度に倒したリクライニングチェアにぼすっと背中をもたれさせる。

「あーあ……また失恋しちゃった」

 あえて軽い感じで口に出してみると、思った以上に胸が苦しくなり、鼻の奥がツンと痛くなった。

 でも、仕方ない。自分で決心したこととはいえ、彼に大きな嘘をついてしまったのだから。

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