会長様の秘蜜な溺愛
▼ヒミツな始まり
元から研がれもしなかった牙は、へし折られたのだと思う。
引き戸にかけた手が震えた。
声は正直に上擦っていた。
正直に感じた恐怖を隠すように
一歩踏み出した時、唇を強く噛んで。
「…随分と遅かったな」
わたしが昨日聴いた低音に
今日ははっきりと分かる冷淡さが含まれていた。
それでもその甘美なものは変わらずなのだから、彼が人を魅了する理由は其処に在るのだと納得させられる。
「も…っ申し訳ございませんでした!麻見菜穂と申し…」
「鍵」
「っ、」
「鍵、後ろ。左にひねる」
「…っ…はい…」
俯いたまま顔を上げることが出来なかった。