愛してるからさようなら
 年末のその日、大雪が降った。

しんしんと降り続く雪で、公共交通機関は全て止まり、タクシーも捕まらない状況で、須原くんは言った。

「桃香さん、うちに泊まりなよ」

そんなこと、できるわけない。

「大丈夫。
 歩けばなんとかなるから」

実際には、歩こうにも道も分からないし、距離も10㎞近くあるから、2時間くらい歩く覚悟がいる。

漫喫でも行こうかな。


だけど、須原くんは一歩も引かない。

須原くんちは、このファミレスがテナントとして入っているマンションの上階にある。

確かに須原くんちに泊まれば、雪の中を歩いて帰るより、余程楽だ。

だけど、一人暮らしの男の子の部屋に泊まるなんて……


「じゃあ、俺が宗弥(そうや)んちに泊まるから、
桃香さんはうちに泊まって」

須原くん、ついにはそんなことまで言い始めた。

宗弥くんっていうのは、須原くんを紹介してくれたアルバイトの森くんのこと。

彼はここから徒歩10分ほどのアパートに住んでいる。

「それは悪いよ」

どうしよう。
ここまで言ってくれるなんて。

私は、須原くんをじっと見て考える。

須原くんなら、信じて大丈夫?

大丈夫だと思う。

一抹の不安は残るけれど…

私は意を決して尋ねる。

「須原くん、信じていいんだよね?」

私の問いに、須原くんは顔を綻ばせて断言した。

「もちろんです。
俺、桃香さんのこと好きですから、
桃香さんに嫌われるようなことは絶対に
しません」

「 バカ 」

須原くんは、いつも恥ずかしげもなく、さらっと私に対する好意を口にする。

私はその度に胸の奥で微かに揺れる感情に蓋をして、ごまかす。
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