愛してるからさようなら
告白
 それから、須原くんは、外食ではなく家飲みに誘ってくるようになった。

 私も一度行ったことで弾みがついて、気負うことなくお邪魔するようになった。

 須原くんと二軒隣のコンビニでお酒やおつまみを買って、須原くんちのソファに並んで座って他愛もない話をしながら飲む。

 すると、たまにニアミスで手や肩が触れ合うこともある。

初めはそのたびにお互いに慌てて離れて距離を取っていたのに、そのドキドキすら心地よく思ってる自分がいる。


 そんな日々が続いた3月のある日、飲んでいたワイングラスを置いた須原くんは、真剣な眼差しで私を見つめた。

「桃香さん、俺は、初めて会った時から
桃香さんのことが好きです。
俺、年下で頼りなく見えるかもしれない
けど、ちゃんと一人前になって桃香さんを
支えられる男になるから。
だから、俺と付き合ってください」

え…
どうしよう……

「須原くん。
今はそう言ってくれるけど、須原くんは、
これから就職していろんな人に出会って、
価値感だってどんどん変わってくのよ。
私はもう二十五だし、次に付き合う人は、
どうしても結婚を意識しちゃうの。
だから、ごめん 」

私は頭を下げて、そう言った。

断っちゃった。
今まで「好き」とは言われても「付き合って」とは言われなかったから、なんの返事もしないまま はぐらかしてきたけど、これでもう終わりなのかな。

「なんで?
俺は確かに、まだ就職もしてないし、
桃香さんから見たら、まだまだ子供かも
しれない。
でも、俺は真剣に桃香さんを好きだし、
できれば何年か後には、桃香さんと結婚
したいと思う。
それじゃ、ダメなの?
桃香さん、さっきから条件でしか物を
言ってないよね?
桃香さんの気持ちは?
俺のこと、嫌い?」

嫌い?

ううん、嫌いなわけない。
でも、須原くんは、年下で、まだ学生で……

 すると、須原くんの手が伸びてきて、肩を抱いたかと思うと、そのままソファに押し倒してきた。

「須原くん!?」

驚いた私は、下から須原くんを見上げる。

どうしよう。
どうすればいい?

「桃香さん、本当に嫌なら、今すぐに
逃げて。
逃げないと、俺、桃香さんも同じ気持ち
だと勘違いしちゃうよ」

嫌?

嫌……じゃない。

下から見上げる須原くんは、それまでの中性的な綺麗な顔ではなく、男の顔をしてる気がした。

私は、そんな須原くんを見るのが恥ずかしくて、視線を逸らして彷徨わせる。

すると、須原くんの綺麗な顔が下りてきて、そのままそっと唇を重ねた。

須原くん……

須原くんとの初めてのキスは、ワインの香りがした。
< 6 / 13 >

この作品をシェア

pagetop