君がいれば、楽園

十二月二十四日 午後十一時四十五分の告白

「……トイレの便座。時々だけど、上げたままにしているのが嫌い。一度、はまっちゃって、殺意芽生えた」

 オッサン紳士が、急に咳き込んだ。

 弟は「そういや、俺も同棲始めたばっかりの頃、言われたことあるわぁ……ミナに、ボッコボコにされた」と遠い目をした。

「つい忘れているだけで、悪気はないと思うけれど……ほかには?」

 酔いが回ったせいか、優しく促すオッサン紳士の声が心地よい。

「ほかには……脱いだ服を洗濯機に入れるのがイヤ。ちゃんと分けて洗いたいから」

「え。脱ぎっぱなしにせず、洗濯機に入れてくれるのに、何が不満なの? 冬麻さん、中性洗剤で洗わなきゃならない、デリケートな服なんか着てないでしょ?」

 弟の言うとおり、彼の服はガシガシ洗える系のものがほとんどだ。
 でも、受け入れられない。

「洗濯機には、入れなくていい」

「は? 何で?」

 弟、意味がわからないと首を振る。

 オッサン紳士も同じように、「なぜ?」という視線を送っているのが目を合わせずともひしひしと伝わって来る。

「そんなことしたら、匂いが嗅げなくなるから」

「は? 匂い? 何の?」

「……冬麻の匂い」
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