君がいれば、楽園

十二月二十五日 午前零時の反省

 外へ出ると、ちらちらと粉雪が降っていた。

「あの、帰るって……どこに?」

 誰かに背負われたのは、何年ぶりだろうと考えながら肩越しに訊ねる。

「殺人現場」

「……は?」

 五分ほどでアパートに帰りついた冬麻は、わたしをソファーに下ろすと台所へ向かった。
 かぼちゃの残骸や包丁、血痕などをテキパキ片付けて、わたしの横に腰を下ろす。

「昨夜は、俺もショックでまともに考えられなかった。改めて話をしようと思って来てみれば、ドアは開けっ放しであの惨状。しかも、電話は不通。おまえの母さんが連絡してくれなかったら、警察に通報するところだった」

「ごめんなさい……冬麻が来るとは思っていなかったら……」

「夏加が病院に行ったことはわかっても、どこの病院かわからないし、どの程度の怪我なのかもわからない。夏加の弟から店にいると連絡が来るまで、あちこち探し回ったよ。それなのに……慌てて店に行ってみたら、見ず知らずの男相手に、俺にも話したことのないようなことを相談していて……さすがに、ムカついた」

「あれはっ……酔っていて……」

「炭酸水でも酔うのか?」

「ええっと……指切った時にビール飲んでたから……」

「ビール? 酒を飲みながら、料理しようとしたのか? あえて危険を冒す意味が、どこにある?」

 呆れ顔で怒られて、意味はあったのだと小さな声で説明する。

「冬麻が、かぼちゃの煮つけが好きだから……お母さんも、冬麻のために送ってくれたし……」

「だからって、真夜中に酔っ払って料理しなくてもいいだろう?」

 はあ、と大きな溜息を吐いた彼は、すでに十分乱れている自分の髪をさらにぐしゃぐしゃとかき回した。

「夏加は、いったい俺をどうしたいの? いきなり別れ話をして、俺をどん底に突き落としておきながら、葉っぱどもにも嫉妬するくらい好きだって告白するし。ぜんぜん、別れたいように見えない。そもそも、なんで急に別れるなんて言い出したんだよ?」
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