君がいれば、楽園

十二月二十三日 午後十時の別離

 ――こんなものかな……。

 テーブルの上に並ぶでき合いと手作りが半々の料理を見下ろし、ひとり頷く。

 去年失敗してコチコチの黒い炭になったローストチキンは、無事、飴色に焼きあがった。
 ケーキは、甘い物が苦手な彼も食べられるチーズケーキ。
 冷蔵庫には彼の好きな銘柄のビール。辛口のシャンパンとワインも赤白揃えてある。

 それから……。

 テーブルの下には、綺麗にラッピングされたプレゼント。

「気に入ってくれるといいんだけど……」

 古本屋を探し回って見つけた、彼が好きな場所の写真集。それなりのお値段がしたけれど、なかなか手に入らないものだと言われ、奮発した。

 数々の写真に収められているその場所へ、いつか一緒に行けたらと思っていた。

「ああ、もうっ! 浸るのは、明日でいいのに……」

 感傷的になりかけた時、玄関のチャイムが鳴った。

「遅くなって、悪い。夏加」

 合鍵を使って部屋に入って来た彼は、コートを脱ぎ捨て、スマホとお財布をテーブルに放り出す。

「……お疲れさま」

「汗臭いから、先にシャワー使わせて」

 わたしが手を出すまでもなく、着替えとタオルを自ら用意し、浴室へ向かう。

 タオルや着替えだけでなく、彼が使う色んなものがわたしの部屋には置きっぱなしになっている。

 ――必要なものだけ持っていってもらうとして……植物たちは、貰ってもいいよね?

 彼が持ち込んだ数々の観葉植物。物言わぬ彼らだけれど、いなくなってしまったら、この部屋はとても殺風景に見えるだろう。

 ――もし、全部引き上げると言われても……この子だけは残る。

 一番のお気に入りで、一番の古株であるアイビーの葉っぱを撫で、ふと思い出す。

 ――あ、チーズも買ったんだった。

 冷蔵庫に忘れ去られていた最後のひと皿を取り出し、テーブルに置こうとした時、彼のスマホが振動した。

 見るつもりなんて、なかった。

 見たいとも思っていなかった。

 ロックを掛けていない、プライベート用のスマホの画面に表示されたメッセージが、目に焼き付く。

『この前は、忙しいのに会ってくれてありがとう。すっごく楽しかった。やっぱり、冬麻が一番だよ。別の人じゃ満足できないと思った。明日も、楽しみにしてるね!』
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