私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
魔の巣窟での毎日!
 須藤課長にお客様のことを伝えたら、猿渡さんに急いでコーヒーを落とすことを命じられたので、慌てて給湯室に駆けこんだ。コーヒーを落とす準備をしながら、これからしなきゃいけないことを考える。

(部署の掃除だけじゃなく、隣のミーティングルームもきっちり掃除しなきゃだな。お客様がいつ来るかわからないわけだし、綺麗にしておかなければ!)

 須藤課長から未だに仕事の指示がないだけに、することがなくて掃除ばかりしていた。

「お疲れサンバ。今猿渡さんが、佐々木様を迎えに行ったヨーグルト」

「わかりました。あと少しでコーヒーの用意ができますので」

「俺がミーティングルームに持っていくから、ヒツジちゃんは部署に戻っていいよ。掃除の途中でしょ?」

 珍しくギャグを言わない原尾さんに面食らいつつ、思いきって「お願いします!」と頼んでしまった。

「すみません、ちょっとお手洗いに行ってきます」

「えっ? お手洗い!?」

「すぐに戻りますので!」

 なぜか困惑顔の原尾さんを不思議に思いながら、ミーティングルームの前を通ったら、扉の前に須藤課長が立っていた。

「ヒツジ、どこに行くんだ?」

「お手洗いに行ってきます。コーヒーは原尾さんが運んでくれますので、ご安心ください」

「それはわかってるんだが、今すぐ行かなきゃダメなのか?」

「まあ、お手洗いなので急ぎたいのですが」

 当たり前のことを言ったら、須藤課長はどこか焦った様子で、「困るな、それは……」と頭を抱えはじめる。

「この部署は、トイレも好きなときに行かせてもらえないのでしょうか?」

「いつもなら問題なく送り出していたんだが、タイミングがその……」

 早く行かせてほしかった私は、須藤課長に文句を言おうと口を開きかけたときだった。

「佐々木様をお連れしましたで! って、どうしてヒツジちゃんがそこにおるの?」

 猿渡さんが糸目を大きく見開いて、私をまじまじと見る。

「ヒツジは、のっぴきならない用事で、ここを通りかけただけだ。しょうがない」

「須藤課長、はじめまして。佐々木システムウェーブの代表取締役の佐々木です」

 猿渡さんの背後から、メガネをかけたイケメンが現れた。にこやかに須藤課長に握手を求める様子はとても自然な感じで、爽やかなものが漂っているのを感じた。

「経営戦略部の須藤です。はじめまして」

「こちらの女性は、ヒツジさんと仰るのですか?」

 須藤課長と握手をかわした佐々木さんが、不思議そうな表情を浮かべながら、いきなり私に話しかけた。
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