愛衣さんとのデートが決まってから、レンタカーを一週間借りた。仕事が終わったあとにハンドルを握り、愛衣さんの自宅とテーマパークまでの道のりを毎日運転して、デートの日に備える。

 滅多に運転していなかったせいで、最初は意味なくふらついたり、危ない挙動があったりして、下手くそという言葉が似合う運転だったが、慣れてくると勘を取り戻したこともあり、無難に運転することができた。

 あとは愛衣さんが隣にいるということに慣れれば、きっと失敗しないハズという考えのもと、会社にいるときはなるべく傍にいるようにした。

 ほかにも、女のコの扱いのエキスパート高藤からのアドバイスで、いろいろ頑張った。念願だった自分から愛衣さんにキスしたり、内に秘めた想いを告げることができた。しかしながら好き以外の言葉が出てこなかったのは、かなり残念と言える。

 だが俺の気持ちを知ったことで、先週よりも愛衣さんとの距離が縮んでいるだろうと思った考えは、出勤後から見る間に打ち砕かれた。

 一番最初に目にした、山田と仲良さそうに話す愛衣さん。挨拶したいのに、話しかけるタイミングがまったく掴めない。ふたりだけの世界がそこに形成されていたため、近寄ることもできなかった。

(俺が出勤したことにも気づかないくらいに、山田と集中して話をしているというのは、やっぱりヤツのことが好きだから、俺の存在が目に入らないのかも知れない……)

 いつものように駄目な理由を考えて、勝手に落ち込む俺の肩を誰かが叩いた。振り返るとそこには深刻な表情の松本が立っていて、挨拶なしに無言で腕を引く。

「松本、おはようございますくらい言えないのか?」

 超絶不機嫌な俺の大声に、愛衣さんがしまった! という顔をしたのを目の端で捉えた。

「須藤課長、挨拶どころじゃない。俺のパソコンからデータが抜かれた」

 松本のデスクに置いてあるノートパソコン。セキュリティに万全を期すために、指紋認証でロックを解除しなければ、操作なんてできないはずなのだが。

「パソコンの中にあるデータで抜かれるものといえば、ごく一部に限られてくるが、おまえ専用のパソコンから抜くというのは、相当な腕の持ち主じゃないと無理だろ」

「そういうこと。しかも監視カメラも切られてる。出入口から経営戦略部の通路のみ限定で」

「映像が残っていたら、足がつくから当然だろうな。会社にナイショで取り付けてあるカメラもやられてるのか?」

「まだ確認していないけど、データを抜いている以上すべてやられてる可能性が高いし、録画されてる映像もダメかもしれない」

 松本のデスクに移動しながら交わされたセリフをもとに、データを抜いた人物の特定を頭の中で推理した。足がつかないように抜かれたデータが多数なら、中にはダミーで抜いたものがあるかもしれない。

「抜かれたものはこれ。あとさ――」

 ノートパソコンのモニターで抜かれたデータを確認できたので、犯人の目星が簡単についたが、さっきから松本の表情が冴えないのが気になった。