私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
「どうしたというんだ?」

「これさ……」

 言いかけた言葉を飲み込んだ松本が、キーボードでそれを打ち込む。

『内部事情に詳しい奴の犯行。心当たりのある社員の特定とここにある全てのパソコンのチェック。俺は防犯カメラの映像の復元に取りかかる』

「わかった。それとなく調べてみる」
 
 モニターから視線を外して返事をしたら、松本の表情から険しさが少しだけとれたことにほっとする。それと愛衣さんのことで、落ち込んでる暇がなくなったのは助かった。

 大きなため息を吐いて、頭を素早く切り替える。

 心当たりのある社員とは、俺と松本以外の誰かに当てはまる。ちなみに松本は別のブラック企業で過重労働させられていたのを、俺が救った経緯があり、恩を返す関係で再就職した逸材。ゆえに俺を裏切る理由はないし、ここでは腹心の部下だった。

 自分のデスクに向かいながら、狭い部署をさりげなく眺める。

 猿渡は重役出勤するので、当然まだ来ていない。山田と喋っていた愛衣さんはコーヒーを淹れる準備をしに行ったのか今は不在で、山田は自分のデスクにて、俺や松本を気にするように視線を飛ばしていた。

 原尾と高藤は、時間的にそろそろ出勤する頃なんだが――?

「おはようさん! いつもより早ぅ出勤して、週末エンジョイしたであろう、かわいい上司の顔を拝みに来たでって、全然かわいくないやん!」

 背後に原尾と高藤を引き連れた猿渡が、唐突に現れた。デスクにて自分のパソコンの立ち上がる遅さに、心底イライラしていた俺の顔を見たせいか、怯えさせてしまったらしい。

「猿渡、朝から騒がしいぞ。スクランブルだ、松本のパソコンからデータが抜かれた」

「ホンマに? 松本ちゃんのパソコンに触れる人なんて、この会社にはおらんやろ。なあ?」

 猿渡は唖然として、後ろにいるふたりに話しかける。

「俺は爆弾や地雷、それよりも怖いものが仕掛けられている気がするものには、安易に触らないことにしてルンバ!」

「原尾さんの意見に賛成。それにしても抜かれた画像は、そんなにヤバいものだったんですか?」

 目を何度も瞬かせた高藤が、顔を顰めて俺を見る。自身のパソコンを調べる焦った松本の様子や、イラついた俺の機嫌で、部署の雰囲気が相当悪くなっているため、そんな顔をさせてしまったんだろう。
< 48 / 114 >

この作品をシェア

pagetop