私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
 猿渡さんが延々と傍で喋っているのに、聴きながらでも平然とキーボードで長文を打ち込み、返答する松本さんがすごいと思った。

「ちなみに松本っちゃんにオススメは、『美人』やで。あとでよぉチェックしとき」

「はいはい。ロック解除については、LINE経由で教える。せいぜい気をつけることだな」

 松本さんがエンターキーを叩いたあとに席を空けるなり、入れ替わりで高藤さんが傍にやって来た。

「猿渡さんってば、松本さんにオススメしておいて、僕には声をかけてくれないんですね」

 にこやかに話しかけた高藤さんを、猿渡さんは椅子に座ったまま腕を組み、猜疑深い表情でじっと見上げた。

「高藤、言いたいことはそれだけなん?」

 咎めるような口調で言い放ったことで、高藤さんの顔から瞬く間に笑みが消える。

「なんのことです?」

「おまえが犯人なのわかってないんは、ヒツジだけと言うことや。なにか理由があって、松本ちゃんのパソコンからデータを抜いたんやろ?」

 冷ややかさを含んだ猿渡さんの低い声が、静まり返る部署に響いた。松本さんは須藤課長のパソコンをチェックしている関係で会話には加わらず、山田さんもふたりのやり取りを黙って見守る。妙な間の後に、原尾さんが喋り出した。

「俺、知ってるんだ。高藤さん、本命ができたんでしょ?」

 原尾さんが普通に会話していることに違和感を覚えるなんて、本当に変な話だろうな。

「原尾さん、なに言ってるんですか。僕に本命なんて、できるわけないのに……」

「須藤課長に向かって、熱心にアドバイスしているのを近くで見ていて、いつもと違うなって感じたんだよ。どうやってそれを表現したらいいのかわからないけど、あのときの高藤さんは違って見えた。きっとお」

「松本さん、俺のパソコンのチェックお願いします。経理部に行って、須藤課長に言われたことをしてきます」

 原尾さんの話をぶった切る山田さんに、須藤課長のパソコンを見ていた松本さんが手をあげる。それは実に、変なタイミングだと思った。
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