私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
「須藤課長が守ってくれたおかげで、どこもケガをしてません」

 私が説明してるのに、須藤課長は不意に視線を逸らして俯く。口調が違うことも違和感のひとつだけど、私に対する態度に、あからさまなよそよそしさを感じた。

「猿渡さん、これはいったい……」

 振り返って背後にいる猿渡さんに訊ねてみたのに、黙ったまま首を横に振る。

「僕もう一度、医者に話を聞いてみるわ。悪いけど須藤課長の面倒頼む」

 猿渡さんが傍にいるお医者さんに話しかけたのをきっかけに、ふたりは反対側の壁際にあるデスクに行ってしまった。きちんと須藤課長と向き合って、ふたたび話しかけてみる。

「須藤課長、頭が痛いとか、ほかにもなにかありませんか?」

 私が話しかけたというのに布団を凝視して、目を合わせようとしない。見えない壁を作られている理由がわからなくて、かける言葉が出てこなかった。

「心配してくれてありがとうございます。むしろケガをする前よりも、スッキリした感じなんです。不思議ですよね」

 須藤課長は俯いたまま、苦笑いを浮かべる。

「すっきり?」

「はい。スッキリしているのに、雛川さんとのことが、なぜだかハッキリしない感じがあります。ボヤけている感じというか……」

 言いながら私をチラリと見るまなざしから、困った雰囲気が漂っていて、どうしたらそれが解消されるかを考えてみる。

「須藤課長、週末一緒にテーマパークに行ったこと、覚えていますか?」

「俺が雛川さんと、一緒に出かけたんですか?」

「はい。はぐれないように、私とこうして手をつないで、いろんな乗り物に乗ったんですよ」

 布団の上で握りしめられたままの左手を、両手で包んであげた。

「うっ!」

 須藤課長は、私が包んだ手を素早く引き抜き、触れられないようにするためか、その手を布団の中に隠してしまう。

「須藤、課長?」

「すみません、反射的に……。雛川さんには、触れていけない気がしたもので」

「充明くん……」

 寂しげに名前を呼んだ途端に、目の前にある頬が赤く染まった。

「雛川さん、どうして親しげに俺の名を……。俺と君はそんな仲じゃないのに」

 須藤課長の隠された左手と、布団の上にある右手。私が右手に触れてしまったら、きっと同じように隠されてしまうんだろうな。
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