私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
魔の巣窟を愛の巣窟にするために
「おいおい、2・3日療養するハズじゃなかったのかよ?」
部署にいる須藤課長の姿に、松本さんが啞然としたのはすごくわかる。私も同じ気持ちだった。病院で包帯を巻かれていた頭は、今は額にガーゼを当てた状態だったけど、見るからに痛々しい。
「松本くん、おはようございます。ご心配をおかけしてすみませんでした」
デスクから腰をあげて、丁寧な言葉づかいで話しかけたことで、松本さんがあんぐりと口を開けたまま、私に視線を飛ばす。黙って首を横に振り、わからないことを示した。
私のリアクションに、松本さんは自分を指差しながら問いかける。
「須藤課長、俺のこと覚えてるのか?」
「はい。松本くんのことは覚えてます。ブラック企業で疲弊していた君に、転職するように促したのが俺ですよね?」
「松本くんのことっていうのは、もしかしてヒツジのことは覚えていないのかよ?」
自分を指差していた松本さんの手が、私を指し示す。
「はい。どうして猿渡くんや松本くんが、雛川さんのことをヒツジと呼んでいるのかもわかりません」
「マジかよ、そんなのありなのか!? ちょっと待っててくれ、そのときの映像が残ってるはずだから」
松本さんは背負っていた鞄を床に直置きして、デスクに置いてあるノートパソコンを起動。パソコンが立ち上がるまで「信じらんねぇ、これじゃあ賭けが御破算になる」なんて、意味不明なセリフをブツブツ呟いた。
「松本くん?」
「ネットワークでそっちに動画を送った。確認してくれよ。マル秘のとこに入れたから」
「わかりました。『ヒツジとの出逢い』という動画ですね?」
そう言ってきちんと椅子に腰かけ、パソコンに向き合う。カチッとマウスをクリックする音が耳に聞こえたあとに、聞き慣れた須藤課長のセリフが部署に響き渡る。
『ああ、今日から来ることになってたんだっけ。すっかり忘れてた。俺は須藤、一応経営戦略部を任されてる』
堂々と自己紹介した須藤課長の偉そうな表情と、目の前にある不安げな顔がまったく一致しない。
『一応じゃないでしょ。がっちり任されているくせに!』
『そうそう。でもこれでまたひとつ、営業部を崩壊させるプロジェクトが進みましたね』
(経営戦略部の面々の言葉が流れたあとで、決定的なセリフが須藤課長の耳に入るだろうな)
『確かに、こんなにうまくいくとは思わなかった。人事部の弱みをうまいこと使えるのなら、他にも応用できそうだ。雛川愛衣……。メイ、ヒナカワ。う~ん、今日からおまえはヒツジな!』
「とまぁこんな感じで、須藤課長がヒツジと命名したんです」
松本さんが大きな声で指摘した途端に、須藤課長は椅子を吹き飛ばして立ち上がる。
「すみませんっ、本当に申し訳ない! 記憶がないとはいえ、俺の高圧的な態度や上司だからという理由で、雛川さんを皆でヒツジ呼びさせていたなんて」
松本さんにしたよりも深く頭を下げる須藤課長に、こっちが恐縮してしまう。
「別に変なあだ名じゃないので、大丈夫ですから! なんなら須藤課長も、私をヒツジ呼びしてください」
「ええっ!?」
「それとも下の名前で呼びますか?」
須藤課長が困ることがわかっているのに、思わず口を突いて出てしまった。
「須藤課長に名前呼びを強請るなんて、雛川さん積極的だね。おはよう」
いきなり山田さんが背後から現れるなり、耳元で挨拶した。
部署にいる須藤課長の姿に、松本さんが啞然としたのはすごくわかる。私も同じ気持ちだった。病院で包帯を巻かれていた頭は、今は額にガーゼを当てた状態だったけど、見るからに痛々しい。
「松本くん、おはようございます。ご心配をおかけしてすみませんでした」
デスクから腰をあげて、丁寧な言葉づかいで話しかけたことで、松本さんがあんぐりと口を開けたまま、私に視線を飛ばす。黙って首を横に振り、わからないことを示した。
私のリアクションに、松本さんは自分を指差しながら問いかける。
「須藤課長、俺のこと覚えてるのか?」
「はい。松本くんのことは覚えてます。ブラック企業で疲弊していた君に、転職するように促したのが俺ですよね?」
「松本くんのことっていうのは、もしかしてヒツジのことは覚えていないのかよ?」
自分を指差していた松本さんの手が、私を指し示す。
「はい。どうして猿渡くんや松本くんが、雛川さんのことをヒツジと呼んでいるのかもわかりません」
「マジかよ、そんなのありなのか!? ちょっと待っててくれ、そのときの映像が残ってるはずだから」
松本さんは背負っていた鞄を床に直置きして、デスクに置いてあるノートパソコンを起動。パソコンが立ち上がるまで「信じらんねぇ、これじゃあ賭けが御破算になる」なんて、意味不明なセリフをブツブツ呟いた。
「松本くん?」
「ネットワークでそっちに動画を送った。確認してくれよ。マル秘のとこに入れたから」
「わかりました。『ヒツジとの出逢い』という動画ですね?」
そう言ってきちんと椅子に腰かけ、パソコンに向き合う。カチッとマウスをクリックする音が耳に聞こえたあとに、聞き慣れた須藤課長のセリフが部署に響き渡る。
『ああ、今日から来ることになってたんだっけ。すっかり忘れてた。俺は須藤、一応経営戦略部を任されてる』
堂々と自己紹介した須藤課長の偉そうな表情と、目の前にある不安げな顔がまったく一致しない。
『一応じゃないでしょ。がっちり任されているくせに!』
『そうそう。でもこれでまたひとつ、営業部を崩壊させるプロジェクトが進みましたね』
(経営戦略部の面々の言葉が流れたあとで、決定的なセリフが須藤課長の耳に入るだろうな)
『確かに、こんなにうまくいくとは思わなかった。人事部の弱みをうまいこと使えるのなら、他にも応用できそうだ。雛川愛衣……。メイ、ヒナカワ。う~ん、今日からおまえはヒツジな!』
「とまぁこんな感じで、須藤課長がヒツジと命名したんです」
松本さんが大きな声で指摘した途端に、須藤課長は椅子を吹き飛ばして立ち上がる。
「すみませんっ、本当に申し訳ない! 記憶がないとはいえ、俺の高圧的な態度や上司だからという理由で、雛川さんを皆でヒツジ呼びさせていたなんて」
松本さんにしたよりも深く頭を下げる須藤課長に、こっちが恐縮してしまう。
「別に変なあだ名じゃないので、大丈夫ですから! なんなら須藤課長も、私をヒツジ呼びしてください」
「ええっ!?」
「それとも下の名前で呼びますか?」
須藤課長が困ることがわかっているのに、思わず口を突いて出てしまった。
「須藤課長に名前呼びを強請るなんて、雛川さん積極的だね。おはよう」
いきなり山田さんが背後から現れるなり、耳元で挨拶した。