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 須藤課長と公園で楽しくお昼を食べたあとに、ご自宅のあるマンションに移動した。

「愛衣さんせっかくですので、休憩がてらお茶でも飲んでいってください」

 と言ってくれたおかげで苦労することなく、ご自宅にお邪魔することができたのだけど。

(一番の問題は、どうやってシャワーを借りればいいかってことなんだよね……)

 大きな本棚が置かれたリビングに目を留めながら、ソファの隅っこにちょこんと座る。キッチンでお茶の準備をしているらしい須藤課長の存在を耳で感じつつ、シャワーを借りる理由を必死になって考えた。

 考えすぎて額に汗が滲んだことがきっかけで、アイデアがぱっと閃く。

「須藤課長、すみません! ちょっとだけシャワーをお借りしたいんですが、よろしいでしょうか?」

 勢いよく立ち上がり、ところどころ声をひっくり返しながら問いかけた。ナイスアイデアとは言えないセリフだっただけに、違う意味でドキドキが止まらない。

「……シャワーですか?」

 ありえないお願いをした私の挙動を不審に思ったのか、須藤課長の返事には妙な間があった。その間を埋めるべく、ありえそうなことを述べるしかない。

「実はここに来るまでに、変な緊張したみたいで、背中が汗で濡れてしまったんです」

「え、あ~そぅ……」

 私を見る須藤課長の瞳。なにを言ってるんだろうという感じに見えてしまう。口はなにかを言いかけて引き結んでしまうし、どうにも私から話しかけにくかった。

「愛衣さんがそんなに緊張していたなんて、ちょっと驚きました。俺だけかと思っていたので」

「須藤課長も?」

「だって彼女をはじめて自宅に招くんですから、緊張しない男はいません」

「充明くん……」

 思わず名前呼びをしたら、須藤課長はハッとして顔を真横に背けた。

「ちょっと待っててください。シャワーを浴びれるように、バスタオルの用意をします!」

 須藤課長は手に持っていたコーヒーカップを、割れそうな音をたてながらソーサーの上に置いて、私の視界から逃れるように隣の部屋に消えてしまった。

(汗をかきすぎて、シャワーを借りる彼女なんて、変な女に思われた可能性が大かもしれない……)

 経営戦略部のメンバーが考案したアイデアを駆使しようとしたのに、自爆したっぽいことと、須藤課長に冷たい態度をとられたことがショックすぎて、この場から逃げ出したくなったのだった。