昨日はあのあと、須藤課長に体の隅々を調べられ、散々喘がされてしまった。ゆえにさっきは照れくささや、いろんな感情が相まって、マトモに対応できなかったと思う。

(――職場なんだから気持ちを切り替えないと、絶対に失敗する! 須藤課長に迷惑をかけないようにしなきゃ)

 いつものようにコーヒーメーカーに人数分のコーヒーの粉を入れて、手際よく準備していると。

「ヒツジ、聞きたいことがある」

 松本さんが給湯室に、ひょっこり顔を出した。

「なんですか?」

 作業している手を止めて松本さんに訊ねると、声のトーンを低くしながら私に聞き返す。

「昨日、須藤課長の家に行けたんだろ? どうしてシなかったんだ?」

「あ~、それは……。ゴムがなかったのと――」

「そっか。いきなりそんなことになっても、あの人持っていなさそうだもんな。事前に、ヒツジに渡しておけばよかったか」

 苦笑いを浮かべる松本さんに、須藤課長のデリケートな事情を非常に話しにくい。

「松本さんから渡されても、多分それは使えないと思います」

「あの歳で、装着の仕方がわからないなんてことはないだろ」

「そうじゃなくてですね、須藤課長のサイズが普通じゃないので、装着できないかと……」

 自分なりに濁して伝えた言葉は、松本さんに誤解を与えたようだった。だって目の前にある顔が、なにを言ってるんだって書いてある。

「おいおい、冗談だろ。ポークビッツサイズなのかよ!? そんなのかわいそすぎるだろ。だから今まで、女と付き合えなかったというわけか」

 なぁんて、ひとりで推理して解決していく姿に、頭を抱えたくなった。

「それは違います~。XLサイズなんですってば!」

「げっ、マジか! XLサイズの童貞!?」

 ぽつりと呟いた途端に、お腹を抱えてゲラゲラ大笑いする。

「やべぇ! 久しぶりに腰が砕けた。宝の持ち腐れしてたとか、そっちのほうがかわいそうだろ」

「松本さん、静かにしてください。須藤課長がショックを受けちゃいますって」

 口元に人差し指を当てて、周りを見渡してみる。廊下にほかの社員さんが誰もいないのが幸いだった。

「悪い悪い。あまりに衝撃的な事実に、思いっきり我を失った。だったらデカくても大丈夫なゴム探して、ふたりにプレゼントしてやるよ」

 大笑いで滲んだ涙を拭ってから、私の肩をぽんぽん叩き、どこかに行ってしまった松本さんの背中をぼんやりと見送った。

「雛川さん……」

 小さな嵐が去ったと思ったのに、松本さんがいた反対側から、山田さんが顔を出した。

「すみません。コーヒーもうすぐできますので」

「さっきの話、立ち聞きしちゃった」

 肩を竦めながら私の隣に並ぶ山田さんの表情には、悪びれる様子がまったくなくて、そのことに思わず眉根を寄せてしまった。

「雛川さんから須藤課長を誘ったのに、どうして生でヤらなかったの?」

「え……」

「デカすぎて、挿いらないと思ったから?」

 山田さんは見るからに下卑た笑みを頬に滲ませて、私を見下ろす。今まで見たことのないその面持ちに、こっそり体を横にズラした。