猛獣御曹司にお嫁入り~私、今にも食べられてしまいそうです~
1.お嫁入り
うららかに晴れた五月。

私、甘野幾子(あまのいくこ)は、金剛(こんごう)家の三男である金剛三実(こんごうみつざね)に嫁いだ。

私が二十歳、夫が三十二歳。十二歳差の結婚だった。
この年齢差から、私たちを結んだ縁が恋愛感情でないことは察することができるだろう。
そう、私は思いもかけずこの夫のところへ嫁いできた。

「幾子、おまえの嫁入り先が決まった」

父の鶴の一声は私が十八の歳にくだされた。


私の実家の甘野家は、京都に本店を置く甘屋(かんや)デパートの創業者一族だ。明治創業の老舗デパートは一族経営で、社長のひとり娘。所謂、後継者として育てられた。
とはいえ、父とは中学生になるまでほとんど交流がなかった。

見合い結婚の両親は不仲で、母は籍こそ抜かなかったものの、私が幼い頃から実家の東京を拠点に祖父母と暮らしていた。母の実家は、元華族系譜の名家だ。
父に愛人がいることも、仕事仕事で母を放っておいたことも、プライドの高い母は言わなかったけれど、周囲の言葉で耳には入ってくる。年に一度上京し会いにくる父のことは、どうにも好きになれなかった。

私が結婚に夢を抱けなくなるのは、両親を見れば明らかなこと。
気弱な性格は、気の強い母と祖父母の間に軋轢を生まないよう緩衝材になっていたからだろうと思う。
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