雨のリフレイン

洸平の話

水上洸平の実家は、もともと横浜で貿易の仕事をしていて、かなりの資産があった。
父は『会社社長』という肩書きではあったが、若い頃から仕事もせずに先祖の遺してくれた金で遊んで暮らしていた。

洸平の生母とは見合いで結婚した。
母は、夫の放蕩ぶりにいつも手を焼き、夫の代わりに水上家の切り盛りをしていた。
夫に振り回され、いつも疲れていた母は洸平のこともお手伝いに任せきり。そんな母は、病に倒れアッと言う間に亡くなった。洸平がまだ小学生の時だ。母の記憶はほとんどない。

母が亡くなってすぐに、父はお気に入りのホステスを家に入れた。
それが後妻。
後妻は洸平を毛嫌いして、中学生になった洸平を東京に寮がある光英学院に追いやった。
それ以来、実家には一度しか帰っていない。

大学卒業して研修医になりたての頃。
若い時の放蕩がたたって、父がまだ50代で死んだ。洸平は葬式にも呼ばれなかった。
そもそも洸平には父の死は知らされていなかったのだ。
それなのに、ある日いきなり遺産相続の話をすると呼びだされた。

後妻は、そこでなんと言ったか。

医者にする為に莫大な費用がかかったのだから、それを生前贈与として、今、残っている財産は、全て寄越せと言ったのだ。
女の息子、洸平には弟になる子供も、まだ中学生で金もかかるから。
親の葬式にも顔を出さないような、不義理の息子に渡す金は無いと。

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