雨のリフレイン

逃げる口実

「そうだ。八坂、卒業前スキルアップ研修の課題レポートの見直し頼めるかな?俺、明日は朝イチでバイトなんだ」
「いいよ。やっておく。愛美は、無理そうだもんね」
「ありがとう。国試終わって、卒業式を待つだけかと思ったのに、まだ勉強させるのかーって感じだよなぁ」

頭によぎる洸平のことはとりあえず置いといて、圭太と看護について色々思うことを話した。
就職のこと、レポートのこと。話は尽きない。
しばらく二人で熱く語っていると。


「あら?八坂さん、じゃない?」


声をかけられて振り向く。

意外なことに、声をかけたのはつい先程話題にも上がった、三浦香織だった。
入店したばかりのようだが、全身ブランドで固めた彼女の姿は大衆居酒屋ではひどく浮いている。


「こんばんは」


柊子は挨拶したものの、その先の言葉が浮かばない。言葉は浮かばないのに、先日の洸平と三浦の姿は脳裏に浮かんできて、困惑してしまう。


「三浦先生、お疲れ様です。これから飲み会ですか?」


言葉が出ない柊子に代わって、圭太が三浦に挨拶した。


「あなたは?」
「俺、看護科4年の山崎圭太です」
「八坂さんの同級生なのね。
…そうなの。今日はどうしてもって誘われて」


不本意なのだろう。三浦の顔には嫌だと書いてある。


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