雨のリフレイン
3.期限付き婚姻関係

大学四年生





四月。

柊子は、4年生になった。
と同じくして、戸籍上は『水上柊子』になった。
だが、大学側には今まで通り『八坂柊子』としていられるよう、配慮してもらうことになっている。


母は、まだ入院中だ。
だが、ゆっくりではあるが、回復の兆しがある。

「退院したら、写真よ!
楽しみすぎる!ドレス、決めなくちゃね」

母の回復の起爆剤は、やはり柊子と水上の結婚だった。


「柊子、本当に良かったわ!
ずっと水上先生のこと大好きだったものね」
「お母さん、この間も言ったけど。
翔太先生と、山田師長以外には内緒だからね。
お母さんが一番わかってるでしょ?
看護学生の分際で、お医者様と結婚だなんて、部不相応だってひがまれる。いじめられる」
「女社会の怖さはよくわかってる。絶対に言わないから、安心して。
あーでも、嬉しい!」


喜びを爆発させる母を見て、これで良かったのだと思う。


「やだ、雨だわ。
せっかくの桜も散ってしまうわね。
今年はお花見出来なかったわ」


母が病室の窓に雨粒が付いていることに気づく。


「来年は、お花見しよう。
お母さんのいなり寿司が食べたいよ」
「そうね。家族三人でお花見よ。
どうしましょう、どんどん欲が出る。
私、頑張るわ。病気になんて負けないから」


…良かった。
水上との結婚が、母にとってこれほど効果的だとは。
柊子の胸が熱くなる。このまま症状が落ち着いてくれるなら、こんな形の結婚だって、して良かったと思える。


「じゃ、お母さん。私、レポートあるから帰るね」
「勉強、頑張りなさいね」




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