雨のリフレイン

噂の女医

母、信子がようやく退院できたのは、ゴールデンウィークが終わった頃だった。
今回の入院で、だいぶ体力も回復した母は、自宅に帰るなり文句を言う。

「やだ、洸平くん。てっきり同居していると思ったのに」

入籍した日から、『息子になった』とひどく喜んで、母は水上を『水上先生』ではなく『洸平くん』と呼ぶようになっていた。

水上は、基本的には自分の部屋で生活している。
柊子が2日に一度くらいで掃除、洗濯して、食事も温めれば食べられるように2日分冷蔵庫に入れておく。
忙しい水上の姿を見ることは、ほとんど無い。いつ帰ってきているかさえわからない。
添い寝にキスまでしてくれた奇跡の甘い夜から、まともに顔を合わせていなかった。今ではあの夜は柊子が酔って見た夢だったんじゃないかと思っている。
今日は、母の退院の為に時間を作ってくれたので、久しぶりに彼の姿を見た。


「俺も赴任したばかりで忙しくて。夜もしょっちゅう呼び出されますし」
「そんな事、気にしないでもいいのに。
掃除も洗濯も、部屋が別だと二度手間になるから、こっちに来て?
せっかくうちの息子になったんだもの、遠慮しないで」

母にかかると、水上も子供扱いだ。
水上は困ったように、柊子を見る。母の扱いは、柊子のほうが勿論上だ。

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