雨のリフレイン

美人女医の襲撃





今年の夏は、ひどく暑い。

柊子は吹き出る汗を拭いながら、母と病院を訪れていた。今日は1ヶ月に一度の検査の日だ。
母と待合室のソファに並んで座る。
ここまで歩いてきたから火照った身体が、冷房で冷やされ、ホッとしていると。

「あ、八坂さん。こんにちは。今日は、検査?」

顔見知りの看護師が通りかかって声を掛けてくれた。

「そう。久しぶりね。今は外来の担当なの?」

母がその看護師と話をはじめた。


その時、柊子の視界にひとりの女医がうつる。
初めて見た、まだ若い女医。
背が高くてスタイルもいい。化粧は濃いが、流行りのメイクで美人だ。白衣を着て颯爽と廊下を歩く姿は、いやでも目につく。

母が柊子の視線の先に気づいた。

「柊子、あれが、三浦先生よ。
今日は、三浦先生が外来なの?」
「あ、はい。
今日は、本当は担当じゃなかったのに。ワガママで困ってるんですよ。何でも思い通りにならないと大変で」

よほど困っているのだろう。
その看護師が母にこっそりと耳打ちをして、深いため息をついた。

「あらら」

母は、こんな時、頑張れとは言わない。相手が充分頑張っていると、わかっているから。
だから、何も言わずに背中をあやすように数回ポンポンと叩いて、ただうなづいた。

ーーわかるよ。

母の顔がそう言ってる。

「ありがとうございます、八坂さん。
柊子ちゃんも、もうすぐ同僚になるわね。待ってるよ」

看護師はそう言って、仕事に戻って行った。
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