恋を拗らせている。
1.弥那のノート
「弥那(やな)」
「…っ、な、なに」



練習中。
誰もいない男バスの部室。

汗臭くてきたない部屋で、仕事がひと段落ついた弥那が1人で掃除している。


俺と弥那だけ。



俺が遅れてきたことにびっくりしたのか、それとも俺がこのタイミングで話しかけてきたことにびっくりしたのか、ゴミ箱からいくらかゴミを取りこぼし、慌てて拾う。



そんな弥那に俺は手に持っているノートを見せる。


「弥那、なにこれ」
「…っ、なんでそれっ」
「ここに落ちてた」


焦った顔。バレてはいけないことが、バレてしまった顔。
弥那はゴミ箱を手放して、ノートを奪い取ろうと手を伸ばした。

俺は不意に手を上にあげる。



「…っ」


カタンっとゴミ箱が倒れる。


弥那は俺の胸に飛び込んで、鼻をぶつけた。
涙目に俺を見上げて睨みつける。
ふわっと弥那の甘い匂いが鼻をくすぐった。



「返してっ」
「…なんなのこれ」



俺も威圧的に睨みつけると、弥那は少し怯んで、ポタリと、涙を流した。



「…見たの?」
「何かって聞いてるんだけど」

「…っ、そんなの、」
「なんで言ってくれなかったわけ?」



弥那はポタポタと止めどなく涙を流して、俺からフラフラと離れる。
怯えた顔で、俺の目を見つめた。










「あのさ弥那、───」
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