独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
緊張の挨拶

ジメジメした梅雨も明け、夏らしい厳しい暑さのなか、樹先生のご両親に挨拶するために、東京駅から金沢行きの北陸新幹線に乗り込んだ。

手配してくれた席は、グリーン車よりもランクが上のグランクラス。道中は軽食や飲み物が提供されるらしいし、シートは体を包み込むようにフィットして快適だし、足元は広々としていて、とても贅沢なひとときを過ごせそうだ。

けれど今の私は、この新幹線の旅を楽しむ余裕はない。

「今からそんなに固くなっていたら疲れるだろ? もっとリラックスしたら?」

樹先生がシートに背筋を伸ばして座る私を見て、クスッと笑った。

グランクラスに乗車するのに慣れているのだろうか。長い脚を組んで肘かけに頬杖をついて、くつろいでいるように見える。

「そう言われても、ご両親に反対されたらと思うとやっぱり不安で……」

今日の日に備えて挨拶の練習を重ねたし、清楚な服装を心がけて紺色の膝下丈ワンピースを新調した。

でも言い間違えたらどうしようとか、童顔な私を見てご両親がビックリするんじゃないかとか、なにかと心配は尽きない。
< 58 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop