同期のあいつ

SIDE 鷹文

はあー。
溜息をついて、コーヒーを口にした。

俺は一体何をしてるんだ。
よりにもよって鈴木に手を出すなんて、おかしくなったとしか思えない。

イヤ、別に鈴木に魅力が無いというわけでは無い。
鈴木はいい女だ。
どちらかというと美人の部類に入るし、性格だって姉御肌でみんなに好かれている。
ちょっと尖った感じと、時々見せる女性的な顔のアンバランスがたまらない。
でも、それ以上に同僚として彼女を信頼している。
営業なんて言う結果重視の世界の中で、彼女はいつも堂々として、真っ正直に前だけを見ている。間違ったことは許さないし、困った者を見れば黙って手をさしのべる。
それが鈴木一華だ。

俺が仕事で困ったときには、まず彼女に相談するだろう。
そう言う意味では彼女の事を信頼し、同期として誇りに思っている。
それなのに・・・


昨夜はたまたま1人で飲みに出た。
向かった先はホテルのバー。
同僚と行くにはちょっと値段が張るが、知り合いに会わないのが魅力で月に数度行く店。
しかし、そこに意外な人がいた。
カウンターに座る1人の女性。
グラスを口に運びながら、マスターに話しかけていた。

彼女がこの店にいること自体に違和感はなかった。
入社して最初の同期会で、「送って行くよ」って話になり自宅の住所を聞いたときから思っていた。
都内の高級住宅街、その中でも大きなお屋敷が並ぶ地名を挙げられ、「鈴木はいい所のお嬢なんだ」と思った。服だって、派手ではないけれど仕立ての良いものを着ているし、行動の端々から育ちの良さが感じられた。
しかし、6年も一緒に仕事をしながら俺はそれ以上突っ込んで聞くことはしなかった。
逆に聞き返されたら困る事情を、俺も持っているから。

昨日も、しばらくは黙って見ていた。
しかし、
「お客さん、大丈夫ですか?」
心配そうに駆けられたマスターの声。
確かに、かなり飲んでいて・・・
ああ、カウンターに倒れ込んだ。

「お客さん、お客さん」
何度も声を掛けているが彼女は動かない。

ったく、何をやってるんだ。
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