有難うを君に
「一応市内の店の良さそうな所を回ってみようと思って、んでここが最後なんだよね。だから俺のソープに対する評価はゆりなちゃんに掛かってるって事」

「私、責任重大じゃないですか!私で大丈夫かなぁ」

「少なくてもルックスに関して言えば今までで1番だから頑張って」

「出来るだけ善処します・・」

冗談めかして言う俺に苦笑いを返しながらゆりなが泡を流す。手渡された歯ブラシを口に咥えながら湯船に浸かった。

5分程雑談をして、上がってから身体を拭いてもらう。デスクの前に置かれた椅子に座るように言われて裸のまま腰掛けてみると、思った通り座り心地の良い椅子は柔らか過ぎず硬過ぎず、優しく身体を受け止める。

「失礼しますね」

椅子に背を預けて浅く腰掛けていた俺の膝の上に向かい合う様にして、ゆりなが乗ってくる。丁度正面の壁に備え付けられてある姿見にゆりなの後ろ姿が映っていて、俺の膝に跨ったその姿は短過ぎるスカートがめくれ上がり、紅い下着のお尻が露わになっていた。

「成る程ね。この為に服は脱がなかったのか」

「ふふっ・・」

得意げに微笑みながらゆりなが俺の下半身を擦る様にして腰を前後にグラインドさせる。正面の姿見と右手にあるデスク側の壁にある鏡にその姿映り、官能的な絵面を作り上げていた。

「せっかく秘書の可愛い服ですから・・こうゆうのは嫌いですか?」

「嫌いな男なんかおらんやろ。めっちゃエロいな」

ゆりなは悪戯っぽい笑みだけ浮かべて唇を重ねて来る。甘い匂いがして、俺の唇の間に舌が滑り込んだ。

「・・んっ・・」

重ねた唇の端からゆりなの吐息が溢れて俺の耳をくすぐった。

「そのまま・・・動かないで・・」

ずり落ちる様に膝から降りて、俺の前で膝立ちの体勢をするとそっと俺の身体を愛撫した。







「ごめんなさい、私が力不足で・・」

俺の腕枕に頭を預けたゆりなが申し訳なさそうな顔をして言った。

「いやいや、ゆりなちゃんの所為じゃなくて俺の問題だから大丈夫よ。それにちゃんと気持ち良くしてくれたし、大満足」

「ホントに満足してくれましたか?」

「ホントに満足してるよ。ありがとう」

「でも次は絶対リベンジしましょうね、待ってますから」

上目遣いで言うゆりなに曖昧な笑顔を返してから俺は話題を変えた。

残り時間は趣味の話しや他愛のもない雑談をして過ごし、時間のコールを聞いてから2人で部屋を出た。

一階へと続く階段の上で会った時と同じ様に抱き合って軽く唇を重ねるだけのキスをした。

「ありがとう、楽しかったよ」

「私も楽しかったです。また会えるの楽しみにしてますね」

軽く手を振りながら階段を降りて行く俺を、ゆりなは見えなくなるまで笑顔で見送っていた。

「ありがとうございます。こちらアンケートになりますので記入お願いします」

サービスの内容や女の子の態度と言葉遣い、スタッフの対応などの項目があって、女の子に一言書く欄と、店と女の子それぞれ点数をつける様になっている。

点数は店も女の子のものも満点の100を記入し、コメントを書くスペースにペンを当てて少し考えてから動かした。

『ありがとう。来て良かったよ、大変な仕事だと思うけど頑張って』

当たり障りのない文を書いてからスタッフにアンケート用紙を返し店を出た。11月の終わりにしては暖か過ぎる日差しが少し鬱陶しく感じた。

そのまま家に帰ろうかと思いスマホを取り出すとナツからメールが入っていた。

『今日は来る?』

用事があるわけでもないが、行かない理由も特に思いつかなかったので『行くわ』と一言だけ返してから、駐車場に向かった。

ナツの家の近くのパーキングに車を停めて、マンションに向かっている途中でナツの車が停まっているのが見えた。

「休みか?」

独り言を漏らしてオートロックの入り口に行き部屋番号を入れてインターホンを鳴らしてみる。

「はーい。あれ?司?」

「ああ、今日は休みなのか?」

「うん、そうだよ。今開けるね」

インターホンが切れると同時に開いた自動ドアを通り抜けて、目の前のエレベーターのボタンを押した。

滑る様に動き出したエレベーターはナツの部屋のある階に俺を下ろす。等間隔に並んだドアを2つ通り過ぎ、3つ目のドアに差し掛かるとほぼ同時にドアが開いてナツが顔を出した。

「おかえり〜司」

「ただいま。平日に休みなの珍しいな」

「うん、まあたまにはね」
 
部屋の中に入ると自然んな流れでナツが俺の上着を取ってハンガーに掛けてくれる。気負わないでこうゆうよう事を自然に出来るはナツのいい所だと思う。

「お昼は食べてきたの?」

「ん、いやそういやまだだった」

「も〜!司ってそうゆうとこ相変わらずだよね。ほっといたら1日何も食べなかったりしそう」

「いやいや、流石にそれはない。腹が減らないわけじゃないんだし」

「ほんとにぃ?まあ、私もまだだし適当に作るから座っといて」

「ああ、ありがとさん」

ベッドを背にして座りスマホを取り出すと、暇つぶしにいつもの情報サイトのゆりなのページを開いた。

『100分パネル指名の社長様

 今日はゆりなと遊んで頂いてありがとうございます(ハート)

 帽子も服もお洒落な社長様(笑顔)

 凄く優しくて、色々気を遣わせてしまってごめんなさい(汗)

 色々お話しも出来て楽しかったです。オススメの本読んでみますね!(本)

 お兄さんも楽しんでもらえたかな?今まであんまりいいイメージなかったみたいだけど、ゆりなで大丈夫だったかな?(汗)

 また会えるの楽しみにしてます(ハート)

             ゆりな(ハート)』

なるほど人気なのも頷ける。ルックスはかなりのレベルだし、愛嬌もある。サービスも申し分無い、お礼文も個人宛に書いてあり距離感も近く感じるだろう。要するに・・

「うわぁ・・あざとい子・・」

いつの間にか目の前にナツが立っていて、苦虫を潰した様な顔をして俺のスマホを覗き込んでいた。

「はっきり言うなぁ、俺もあざといとは思うけど、多分この子のやり方が王道なんだよ。好かれてなんぼなんだし、こうゆう接客は男ウケするしな」

「まあ男って単純だもんね」

「悪かったな、単純で」

「司は違うよ。だから好きなんだもん」

「さいですか・・俺にはこんな男の何処がいいのか理解に苦しむけどな」

「私も変わってるからね。今日はこの子と遊んで来たの?」

「そうだけど、なんで行ってるの知ってるんだよ」

「わかるよ、匂いが違うもん。じゃあ今日もソープの価値に関してはわかんなかったんだ?」

「ナツってたまにメンヘラっぽいとこあるよな、普段全然そんな感じじゃ無いのに。まあ確かに女の子はタイプじゃなかったけど、店自体はかなり良かったと思うぞ。この子も俺のタイプでは無いけど、普通にその辺歩いてたら二度見するレベルに美人だったし」

「ん?ナツは普通にメンヘラだよ?我慢してるだけでヤキモチだって妬くし。へ〜美人なんだ、それでこの感じなら人気あるんだろうね。女の子にはあんまり好かれそうでは無いけど」

皮肉混じりの言葉を残してナツがキッチンに戻る。水を流す音がして、その後に包丁がまな板を叩く音が続く。

「・・ナツ」

「ん〜?なに〜?」

「俺と居るのが嫌になったらちゃんと言えよ」

小気味良いリズムを刻んでいた包丁の音がピタリと止んだ。顔を上げてキッチンの方を見てみたが手を止めたままのナツの背中は微動たりしない。

「・・・司のそうゆう所は嫌い」

「ナツ?」

「前から思ってたんだけどさ、司ってよくそうゆう事言うよね」

「そうゆう事?」

相変わらず背中を向けたままのナツにオウム返しで言葉を返す。

「私は司と居たいからいるんだよ。嫌なら居ないし、連絡だって取らない、エッチだって私がしたいからしてるし『ちゃんと言えよ』なんて言われるまでもなく嫌なら嫌って言うよ。私は私の為にしか生きない、私は私が1番好きで大切なんだから司も司が思った様にすれば良いんだよ。もしそれで離れるなら、きっとその程度のものだったってだけ」

「・・・」

「私は私、司は司、友達でも恋人でもセフレでも無くて、私達の関係はそんな言葉で表せない特別な物だって思ってる。それでいいじゃん、お互い離れても結婚しても私達は何も変わらない『特別』。世間的に外れててもモラルに反しても私は司とそうありたいよ」

「・・俺がナツを女として好きじゃなくてもか?」

「そんなの関係ないよ。むしろ司が女の子を好きになったとしたら、多分私は司に失望すると思う、だって私はそんな司が好きなんだから。なんで司が女の子を好きにならないかとか、彼女作らないかとかそんな事はどうでもいいの、『人』として私を好きだって言ってくれた、それだけで私は満足してるの」

揺るぎない想いに俺は返す言葉を見つける事が出来なかった。

人を好きになれないクセに人からは愛されたい。そんな独りよがりで傲慢な自分が心底嫌になる。

「悪かった。もう言わないよ」

ようやく捻り出した一言にナツは満足したのか、止まっていた包丁のリズムが再び流れ始めた。

「それで、もうソープは行かないの?」

何もなかったかの様に聞いてくる、ナツのこうゆう変に引き摺らない所も俺は気に入っている。

「ん〜・・とりあえず今日の店に何回か行ってみる。んで、それでダメなら諦めるかな」

「そっか、ねえねえソープって女の子って行っちゃダメなの?」

「女の子向けのソープもあるにはあるらしいけど」

「それって男の人が相手してくれるとこだよね?そうじゃなくて女の子同士で」

「いや、わからんけど、ナツってそっちの気もあんの?」

「そうゆうわけじゃないけど、なんでゆうか興味?司と3人でってゆうのもしてみたい気がする」

「お前ホントに変わってんな・・・」

それからご飯を食べて、その日は久しぶりにナツとのんびりと1日を過ごした。










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