呼吸が乱れ、自分の体じゃないかのように言うことを聞かない。

今自分がどこにいるのか、何をしているのか分からない。

見回しても暗闇ばかりだ。

『……ペンは……』

何時ものようにペンを握ろうとするが、肝心のペンは何処にもない。

すると―。

『……ここは……』

瞬きをしたその一瞬、暗闇だった世界に色が付いた。

目の前には寂しげな森と、腐りかけの廃屋。

何処か見覚えのあるその廃屋へと足を向け、慣れた手付きでドアノブを回す。

ギシギシと軋む音が聞こえるが、何故か懐かしい気がして、中へと入る。

『……知ってる。……私、ここ知ってる』

小さな机と、ベット。

床に散らばっている絵の具や筆。

『……?誰?』

不意に足音が聞こえて振り向くと、誰かがこちらへやってくる。

腰まで伸びたボサボサの髪、絵の具で汚れたエプロンを身に付け、腕には大きな紙袋。

目は前髪に隠れて見えないが、歳はおそらく自分より上の女性だ。

『ただいま』

そう言った彼女の声は、暗く寂しげだ。

『……貴女、誰?』

尋ねてみるが、女性はこちらを通り過ぎる。

気になって彼女を目で追っていると、ベットの側に立った。

そこには、誰も居ない。

『リンゴ、好きでしょう?アップルパイにしましょうか』

何も居ない所に話しかける彼女は、どこか柔らかい雰囲気を纏っている。

『……ああ。ドアを開けたままだったわ。閉めないと』

こちらへやってくる女性をただ見つめる。

間近まで迫った彼女を見上げた時、その顔が見えた。

『……シオン?』

女性の顔は、前に出会ったシオンと似ていた。

すると、視界がぐにゃりと歪む。

ガラガラと何処からか音が聞こえ、何をするでもなく立っていると、彼女の後ろから誰かの影が見えた。

ベットに腰かけている姿が、背景の歪みから浮いている。

『!……貴方……は……』

浮かび上がった人物の顔が、段々ハッキリしてくると、目を見開く。

『貴方……は―』

言葉を紡ごうとしたその時、パリンと割れる音がし、足元が崩れた。

(そう……そうなの……貴方は……まだ、私を……)

影の正体に気付くと、急速に意識が浮上した。