フタツノシタイ
これは大学のサークル仲間と飲み会をしていた時の話です。その日も友達の家に男五人で集まりダラダラと酒を飲み、くだらない話で盛り上がっていた。
時刻は午前2時頃。サークルの友達と夜深くまで飲んでいた事もあり私はだいぶ酔いがまわり意識はもうろうとしていた。ビールが美味かった。
空き缶が転がる。
 その部屋は男だけでむさ苦しさと酒の酔いで苦しくなり私は少し夜風にあたりたくなった。しかしその時起きているのは私だけで友達はみんなぼーと眠りの狭間にいた。わずかに起きている友人に話しかけても「うっうっ」と言うだけで意識はもうろうとしていた。これは仕方ない。
 なので私は一人で友達の家を出た。
 知らない町だがスマホがあるので問題ない。馴れない街の外の光景は真っ暗だったが街灯がポツポツと等間隔にうっすら照らす事で私の目も徐々になれる。時々通る車の明かりが眩しく酔った頭に染みる。
 数メートル歩いたら近くに公園があったのでそこまで歩いてフェンスを抜けた。そこは別世界のように住宅街とは似合わない公園。そこは閑散として物音ひとつない。遊歩道の先の方は暗くて見えない大きく長く感じた。だが今の私には不思議と恐怖心はなかった。そこには妙に落ち着きすらあった。夜風が心地よく心が落ち着く。
私はフラフラ公園の散策を続ける。ここなら迷うことも無いだろう。よく見るとこの公園は遊戯はひとつも無いが多くの木々が生い茂る。とても綺麗な公園だと感心した。昼間にも来てみようか。
 そこでどれくらいだろうかおよそ数百メートル歩いた所のベンチに座った。まだ気持ち悪さは続いているが意識はハッキリしている。
 
 
そんなとき嫌な予感と言うのだろうか第六感と言うのだろうか悪寒が私の背後にビシビシと感じた。
振り向いては行けない気がする。生い茂る木々の間に女性が立っていた。黄色い服を着た女性だ。人がいると思い。驚いた。
 
 しかし女性の様子があきらかに変な事にはすぐに気が付いた。酒もすぐに覚めた。ハッキリと現状を理解していく脳。私はその女性から視線を外せなくなった。
 
 その女性は足が少し浮いていた。地面から20センチいや30センチくらい離れている。
 
どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
自分の心臓の鼓動が聞こえる。酒のせいではない。確実な現実だ。どうすればいいのだろう。
夢であって欲しいと願うがそれは叶わない。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
 自分の息が荒くなるのが分かる。
 夢か、いや、現実だ。
 
 怖い物見たさというのか。その光景が目から離れなかった。どうしても視線を外すことが出来なかったのだ。黄色い服を着た女性は首に茶色い紐をくくり吊っていた。生い茂る木々と共に夜風がゆらゆらと仰いでいた。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
それは初めて見た死体だった。
それは死体とは思えず不謹慎にも美しく感じた。長い髪と黄色いパーカー。
それは死体というのが分からないほど鮮度が高かった。

どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
どうしよう。警察か、救急車か分からない、頭が混乱する。

私が慌てているとスーツ姿の男の人がゆっくりと歩いて来て死体に近づいてスマホをいじり電話をかけている。

ありがたい。助かった。私が慌てているうちに冷静な男性が電話をしてくれている。
私は情けない男だ。何も出来なかった。
私は呆然とその様子を眺めていた。鼓動ははやく身体は震えていた。

私はその場を逃げ出すのとその場であった事を報告しに友達の家に戻った。

「おい、さっき自殺した死体見たんだけど」

部屋に戻ると全員寝ていた。

すぐに話したかったが仕方ない。私は散らばった缶ビールを拾い無理矢理飲み込んだ。そして大きく深呼吸をした。
 忘れよう。忘れよう。そっと力が一気に抜けてその場に座り込んだ。
友人のいびきがうるさい。
こんな体験を私はしたのにこいつらは気楽なもんだ。
私も寝てしまいたい。目をつむってもさっきの光景が思い出される。恐ろしかった。あれが死体。いやその判断は早い。まだ助かるかもしれない。首吊りを発見してしまうなんて、ついてない。
酒酔いとは違うなんとも言えない吐き気が喉元に詰まる。

綺麗な若い女性だった。記憶に鮮明にこびりついている消えはしないだろう。なぜ自殺をしようと思ったのだろう。近所の人なのだろうか。

「うう、」この部屋の持ち主が目覚めた。
「おい、俺今すごい物見たんだけど」
「なんだよすごいのって」
「死体だよ死体」
「は?」
「そこの公園があるだろ、そこで首吊りの死体があってさ」
「は?嘘だろ」
「嘘じゃないって」
「どうしたの?」
「いや、他に人がいたから逃げてきたよ、警察とか来ると面倒だろ」
「マジかよ、絶対嘘だね」
その瞬間部屋が真っ赤に染まった。それは窓をすり抜けてきたパトカーのサイレンだった。
「ほら」
「マジかよ、見に行くべ」
「あー、でもグロいよ」
「いいから行くべ」
友達は簡単に支度を整えて外に出ていった。今度はその死体の場所を伝えなくてもすぐにでもどこにあるか分かった。
その場所を中心に人だかりが出てきていて、ざわついていた。
「マジかよ」
私達はその人混みに近寄っていく。人混みでよく見えない。警察もいる。もうアレは無いのだろうか。
 
私はもう何が起きているか知っているくせに人混みに混ざり近くにいた人に質問をした。
「何かあったんですか?」
「カップルの心中だって」
え。カップル。女の人1人じゃないのか、私が頭をあげるとそこには女の人と隣にさっき電話をしていたスーツ姿の男の人が首を吊ってぶら下がっていた。
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