さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
⚖️ Chapter 7

週明け、また慌ただしい一日が始まった。

「……光彩(ありさ)先生、TOMITAの新事業関連の判例等をまとめた資料をPDFに書き出しましたけど、共有しますか?」

「斎藤さん、ありがとう!
速攻でわたしのMacBook Air(マック)AirDrop(エアドロ)してちょうだい。えーっと、ファイル名はね……」


——それにしても、菅野先生がよくぞ斎藤を貸し出してくれたもんだ。

必要最低限の指示さえしておけば、あとはこちらの状況を見計らって臨機応変に動いてくれる。

なので、彼女がいなかったらどうなっていたか考えられないくらい助かっていた。

——菅野先生には足を向けて寝られないなぁ……


「あ、そうだ……向井さんは千葉先生の(もと)でうまくやってる?」

そもそもは、ニューカマーであるアメリカ・NY州の弁護士資格を持つ千葉先生のアシスタントとして、わたしのアシスタントだった向井を「供出」せねばならなかったことが発端である。

「向井とはたまにお昼休みに一緒にランチへ行ってますが……千葉先生はすでにさまざまな案件を抱え込んでいて、かなりお忙しいらしいですよ」

——やっぱりなぁ……
海外企業との渉外部署は、現地(NY)での実績がある彼を即戦力と期待して、今か今かと待ち侘びてたもんなぁ。

「向井は今、英語だらけの書類に閉口してます。なんせ法務の専門用語ばっかですからね。
もちろん、千葉先生に教わりながら何とかこなしてはいるみたいですけどね」

——うっ、向井……ごめん。
「上」に特別手当を願い出ておくよ。


すると、ちょうどそのとき、わたしの目の前の電話がトゥルルルルーと鳴った。

斎藤の電話は全くの無音だから、依頼人(クライアント)からの外線ではない。
わたしに向けてピンポイントで掛かってきた内線電話だ。

最近では、業務連絡は社内メールでやり取りすることがデフォルトになっているので電話が掛かってくるのはめずらしい。


——だれからだろ?

わたしは受話器を掴んで持ち上げた。

「もしもし……進藤ですが」

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