さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
Prologue

首都高速(しゅとこう)台場線のインターを降りてすぐにある海外でも有名な系列のホテルの、オーセンティックバーのカウンターで、わたしは部下と一緒に呑んでいた。

最近、父から引き継いだTOMITAホールディングスの、法務部での仕事に関するパワーポイント(パワポ)でのプレゼン資料作成に、いくら時間があっても足りない。

その資料集めと整理をしてもらうために、とうとう部下にも休日出勤(きゅうしゅつ)させる羽目となってしまった。

東京第二弁護士会に所属し、父親が所長で代表弁護士を務める「進藤(しんどう)綜合法律事務所」で民事専門の弁護士として大企業相手にコンサルティング(コンサル)をすることが、わたし——進藤 光彩(ありさ)の仕事である。


法律事務職員(パラリーガル)として弁護士を補佐するための専門的な知識を活かしながら、日々の細々とした雑務をアシストしてくれている部下の向井(むかい) 真未(まみ)は、

『いいですよ、光彩先生。
どうせ彼氏もいないし、合コンのお誘いもないし、働いて休出手当いただきます!』

と、ありがたいことに快く応じてくれた。
(小柄なのにたわわ(・・・)に実ったEカップが泣いてるよ——と口に出せば法令遵守(コンプラ)的にセクハラ認定(アウト)なことを、ついつい思ってしまうが……)

だけど、あまりにも申し訳ないので、終業後に違う(フロア)に入っている日本料理店の鉄板焼きカウンターで黒毛和牛のフィレのコースを奢ってあげた。

そのあとは、現在(いま)いるオーセンティックバーのカウンターに河岸(かし)を変え、二人で絶賛「燃料補給」中だ。


——あぁ、激務のあとのボウモアが、五臓六腑に沁みわたる……

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