ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
Hiei's eye カルテ4:後輩との見えない距離


【Hiei's eye カルテ4:後輩との見えない距離】



「日詠先生、本当にすみません。」

『いいんだ。その後の状況を分かる範囲でいいから教えてくれる?』


新幹線を名古屋駅で下車し、急いだほうがいいと判断した俺は、いつも利用する在来線ではなく、タクシーに乗って自分が勤務している病院へ向かった。

そして、着替える時間もないと思った俺はとりあえず産科ナースステーションへ駆け付けた。


「日詠先生の担当妊婦さんを美咲先生が代診していらっしゃったんですが・・・」

言いにくそうに報告してくれる看護師の山村さん。


『で?』

「その妊婦さんに、”日詠先生いらっしゃらないんですか?” って美咲先生、言われちゃって・・・」

『ま、よくある話ですよね。俺自身もレジデントの時は、ベテランの先生が良かったって言われていたし。』

「とりあえず、日詠先生が不在であることを伝えて、代診を始められたんですが、妊婦さんの血圧が上がってしまって・・・」

『その後は?』

「手足の痺れを訴えられて、神経内科に対診をお願いしたところ、脳出血を発症されていました。」


脳出血・・・
血圧が上がり過ぎたんだな


『今は?』

「脳外科がフォローして下さっていて、対応が速かったので麻痺も軽いみたいです。オペを終えた奥野先生も胎児の状態を確認して下さって、とりあえず胎児は大丈夫そうだけど、母体が持たないといけないから早めに分娩に持っていったほうがいいって言ってました。」


やはり奥野さんが対応してくれたんだ
でも俺が呼ばれたのは美咲が動けなくなってるからだって・・・


『美咲は?』

「ずっと泣いています。あたしが妊婦さんを刺激しちゃったって・・どうしよう、どうしようって。」

『今はどこに?』

「ここで泣かれても、他の患者さんが動揺してしまうだろうと思って、一応仮眠室へ誘導していますが・・・」


治療がうまく進まなかった
そんなことはよくあること

泣いているのは
俺の担当患者にトラブルが起こったからなのか?
どうにもできなかった自分に対してがっかりしているからか?

それなら
なぜ奥野さんではなく俺が求められたんだ?
治療に関してなら俺よりも奥野さんのほうが
場数を踏んでいて実績もあるんだ

ま、どちらにせよ
一度、美咲自身から話を聴かないとわからないな


『わかりました。一度、美咲にも状況を確認してみます。』

「お願いします。」


俺は珍しく心配そうな顔をのぞかせた山村さんに少しでも安心してもらおうと
小さく笑って頷いてから、美咲がいるであろう仮眠室のほうへ向かった。



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