蛍火に揺れる
揺れ動く気持ち
ー正直彼のことは、憎たらしく思っていた。

さっきの通り、ノリ君は上位国立大学の院を卒業してうちに入社した人物。

更に言うならば、うちよりも規模が大きい関連会社からも内定を貰っていたらしい。まぁ上層部のメンバーが大層ノリ君を気に入って……ってやつだ。

確かに、彼は人当たりの良い好青年だ。

決して目を見張るほどかっこいいという訳ではないのだが、悪い顔立ちはしていない。
爽やかで屈託のない笑顔が似合うし、優しさがにじみ出た顔とそれに似合う柔らかい物腰。
例えば友達が『彼氏です』と連れてきたら、真っ先に『いい人捕まえたじゃん!』と言わずにはいられないような人物だ。


方や私はと言うと……名前だけが先行する、いわば『お嬢様短大』と言われているが……実際は学費が高いだけの、偏差値としては中堅でしかない短大の出身。
なぜ私がここに入社できたのかと言うと、当時は職種の区分がまだあって、俗に言う『一般職』での入社。いわば雑用係…お茶汲み……腰掛けOL……挙げ句の果てには嫁候補。この会社ではそういう扱いの職種であった。

実際同じ一般職入社の人達は、次々と社内結婚やら関連会社の社員と結婚して行き、結婚後も時短社員として勤務する人が多かった。

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