3LDK、バス・トイレ・〇〇付き
第2話

空気

「ねえ、なつき…。」
まなみはなつきを見て、
「ここはどう?」
と訊いた。

「ん、何かいい物件あった。」
なつきは、まなみに近付いた。

「ここなんだけど…」
と、まなみは携帯の画面を見せた。

《コーポ・Tigre blanco(ティグレ・ブランコ)》

と、アパート名が載っている。

《3LDK・最寄り駅から徒歩5分》
と書いてあった。

「うん、なんか良さそうね。」
となつきも気に入ったようだ。


━━数日後、二人はアパートを管理している不動産屋を尋ねた。

《高日不動産(たかにちふどうさん)》

と書かれていた。

二人は、中に入った。

「どうも、いらっしゃいませ。」
不動産屋の男性は、
「社長の高田です。」
と言って、名刺を差し出して来た。

まなみが名刺を受取って見た、

《高日不動産・代表取締役:高田純一(たかだ・じゅんいち)》
と書かれていた。

「あの…。」
まなみは不思議そうな顔で、
「高田さんなのに、高日不動産なんですか…?」
と訊いた。

「そうなんですよ。」
高田は二人を見て、
「会社の登録する時に、高田の“田”の“縦棒”を引くの忘れちゃったんですよ。」
と答えた。

「え?」
「え?」
二人は、目を丸くした。

まさか、そんな大事な時に、自分の名前を間違えてしまうとは…。

「ねぇ、なつき、この不動産屋さん、大丈夫かな?」
まなみは小声で、なつきに訊く。

「う、うん…。」
なつきも心配な様子。

━━二人は、例のアパートを見せて貰う事にした。

比較的新しい物件で、しかも、内装リフォームも済んでいたので、かなり綺麗な部屋だった。

「なかなか、綺麗だね…。」
と、まなみは言った。
━━しかし、表情は明るくなかった。

「そ、そうね。」
なつきも頷いた。
━━なつきの表情も明るくはなかった。

「ここに…するの?」
まなみが訊いた。

「う、うん…。」
なつきは、ぎこちない返事をした。

二人は、この部屋に決めるる事にした。


━━不動産屋からの帰り道…。

「ねぇ、なつき…」
と、まなみが言った。

「ん、何?」
なつきはまなみを見た。

「気のせいかも…知れないんだけど…。」
と、まなみは言葉を濁した。

「何か、空気が重かったよね…。」
と、なつきが言った。

「え!? やっぱり!」
と、まなみは驚きを隠せなかった。

「うん。」
なつきは頷いた。

どうやら二人共、あの部屋の空気が違うと感じていたようだ。

「なら、なぜあの部屋に決めたの?」
と、まなみは訊いた。

「まぁ、まなみと一緒なら、何とかなるかと思って。」
なつきは、悪戯っぽく笑った。

「うん、そうだね。」
まなみは微笑した。

━━そして、東京に戻った二人は引越しの手配をした…。
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