瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
プロローグ
 彼女に出会った日のことはなにもかも鮮明に覚えている。

 クラウスは国王である伯父があまり好きではなかった。むしろ彼を好む者が国民を含め、近しい人間にいるのかさえ疑わしい。

 野心家で自尊心が高く、使えないと思えばすぐに切り捨てる。そこに情などは一切ない。

 性格は政治体制にも表れる。人を人とも思わぬ冷酷さで弾圧的なやり方は、恐怖と不満の渦を生み出していく。無論お人好しの正義感だけでは国王は務まらない。

 国の頂点に立ち、治める者として時には非情な判断を下さなければならない場合もあり、多少の狡猾さは必要だ。

 それを差し引いてもクラウスはやはり伯父に、国王に対していい感情は抱けない。ただひとつ、この男を評価するならば自分を次期国王として見据え、買っているところだ。

 明るい光を集めたかのような金の髪と思慮深さを思わせる鉄紺の瞳は生まれつきで、幼い頃から整った顔立ちだと誰もが口をそろえ褒めた。

 そんなクラウスは、ここ数年で少年のあどけなさから青年の精悍さが加わり、ますます彼の外貌は人の目を引く。

 見目だけではなく、年齢の割に落ち着いており意外な視点から物事を捉えたりもするクラウスを現国王は自分の後継者にと考えていた。

 ここに連れて来られたのもその一環だった。クラウスが十六になる頃、国王に話があると呼び出され、共に向かう先は城の地下だった。

 普段はまったく使われておらず、存在自体を知る者も今はほぼいない。罪人でも閉じ込めていたのか、密談にでも使用していたのか。

 用途は定かではないが、人どころかねずみ一匹いる気配さえない細く狭い階段を下り、国王は低い声でクラウスに説明していく。
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