瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 さらには『自分は戻らないかもしれない』とまで告げ、その場合の今後の指示まで与え出すのだから反対しないわけがない。国王である彼をなくすなど国を揺るがす一大事だ。

 それでも最終的にクラウスの意を汲んだのは、彼らがアードラーである前にクラウスの幼馴染みであり親友だからだ。

 『どうしても行くのか』と尋ねるルディガーに、クラウスはいつもの余裕さなど微塵もなく真剣な面持ちを見せる。 

『誓ったんだ、あいつに。必ず取り戻してやる』

 思いつめた表情の彼に、スヴェンとルディガーは顔を見合わせしばし躊躇った後、決断をくだした。

 どうせこちらがどういう反応を示そうと彼の心は決まっているのだ。なら信じるしかない。

 そして今、クラウスはレーネを連れて無事に戻ってきた。

 ルディガーは大股でクラウスに歩み寄り、大きめの白い布を二枚手渡す。幼馴染みはきっと帰ってくると信じ、そうしたら濡れているであろうと雨が降ってきた時点で用意していた。

 こういう気遣いができるのは、さすがというべきかルディガーらしい。感心しつつ受け取るとクラウスはもう一枚をレーネの頭にすっぽりとかぶせる。

 髪の水分を布に含ませるよう手を動かすクラウスにレーネは慌てて叫ぶ。

「私はいいからそっちが先に拭いて!」

「お前の方が濡れている。ただでさえ調子が悪そうなのに、これ以上悪化させたらどうするんだ」

 呆れた口調だが、拭き方は丁寧だ。そんなふたりにルディガーはが口を挟む。
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