瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
探し物のために
 意識を手放せないまま馬車に揺られ続け、一行が城に戻ったのは夜の帳がすっかり降りたあとだった。

 車内がいくら国王用にと広い造りになっていても、体はどうしても凝り固まる。レーネは自身の肩を揉みつつ夜に輪郭を滲ませるアルント城を眺めた。

 これはなにかの夢か。ぼんやりとそれぞれに指示を出すクラウスに視線を移す。いまだに自分の置かれた状況が信じられない。レーネの扱いに関しては一番後回しだった。

「彼女はどうするつもりだ?」

 他の面々がいなくなったのもあり、ルディガーは軽い口調でクラウスに尋ねる。

「今から客室を用意させるのも手間だろう。彼女はこちらで預かる」

「陛下のお側におくなど、なにをしでかすかわかったものではありません! 本来なら不敬罪で捕らえてもおかしくない存在です!」

 すかさずバルドが口を挟むが、ルディガーが冷静に返す。

「とはいえ仮にもノイトラーレス公国の王女だ。無体な真似は我が国の信用をも落としかねない」

 その指摘はある意味、正しい。おかげでバルドは言葉を詰まらせた。

 代わりに厳しい眼差しをレーネにぶつけるが、レーネの瞳は虚無に揺れていた。心ここにあらずといったレーネの肩をクラウスが抱く。

「そういう話だ。あとはこちらの好きにする。彼女については明日、改めて報告しよう」

 ルディガーとバルドに下がるよう告げ、クラウスはレーネを自室へと誘導する。夜の城はおそろしく静かだ。

 見張りの者と何人かすれ違うが、彼らは王の姿を確認するとすぐさま頭を下げ、膝を折る。
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