瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 建物の構造上、玉座のある謁見の間は門から一番離れた位置に置かれる。従って国王の自室も城の奥にあった。

 肩に添えられた手に力強さはないが、有無を言わせない圧力を感じる。衣服越しにでも触れられた箇所から熱が伝わり、じりじりと火傷しそうだ。

 これならまだ前回と同様に地下牢に連行された方がいい。そんな憎まれ口を叩く気力も今のレーネにはない。

 一際大きな扉には、やはり王家の紋章が刻まれている。双頭の鷲。それを複雑な面持ちで見つめていると、中へ案内されレーネは渋々足を踏み入れた。

 洋燈の明かりで灯された王の自室は、自国でレーネに宛がわれていた部屋の何倍の広さがある。

 本棚や机と椅子が手前にあり、奥にはソファや天蓋付きの寝台が配置されている。細かい細工の施された調度品はどれも一流で、赤と金で統一されているのは、玉座と共通している。

 クラウスは脱ぎ捨てたジュストコールをソファの背もたれに放り投げ、首元のジャボを乱暴に緩めて外すと、まだ部屋の入口付近で突っ立ったままでいるレーネに視線を向けた。

「いつまでそうしているつもりだ?」

 質問に返事はなく、硬い表情をしているレーネにとりあえずこちらに来るよう訴える。するとレーネはしばし迷った末、観念して王の元へ近づいていった。

 徐々に距離が縮まり、クラウスの姿がよりくっきりと見える。穏やかな橙色の明かりは心を落ち着かせるどころか不安を掻き立てていく一方だ。
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