瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 少女はため息をついて自分の、正確には神子の付き人であるカインに声をかけた。ここは神子に与えられた神殿で今は彼女とカインしかここにいない。

 十七歳になる青年は落ち着き払った口調で少女をたしなめる。赤みがかった短めの茶色の髪に同系色のダークブラウンの瞳は、母親譲りだ。

 彼の一族は代々村の神官を務め、神子が現れた際の世話係も兼ねる。少女は神子用にと特別に用意された一回り以上大きな椅子に腰掛け、足をばたつかせて彼に噛みつく。

「神様の与えた特権? 冗談じゃないわ、これは呪いよ、呪い!」

「神子さま、口をお慎みください」

 カインは眉間に皺を寄せ、深々とため息をついた。それを見て神子はふくれっ面になった。

 最初はなんだったのか。神の化身とも呼べる存在と取り引きをしたのだ。

 幼くして病に倒れ、命の灯火が消えそうだと悟ったとき、このままで終わりたくないと(わら)にもすがる思いで、その地に伝わる呪いを試した。

 両親との記憶もない。たったひとり、孤独で生きていてもつらいだけ。そう思っていたのに、今さら悔しさにも似た生への執着が捨てられない。

 現れた姿はひどく曖昧だが、はっきりしているのは相手はこの世のものではなく、魅入られる黄金の瞳を持っていた。

『憐れな少女よ。不老不死は難しいが、そなたの魂はひとつの生涯を終えても浄化されずに、次の新たな人生を送るようにしてやろう。これから永遠に記憶を積み重ねていけばいい』

 脳に直接響く声。それを恍惚(こうこつ)の表情で受け入れているのは、自分のようで自分ではない。男か女か区別がつかない声がさらに続けられる。
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