瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 迎冬会が終わり、騒がしかった夜の名残りを残しつつ時間が時間なので城の中はすっかり静まり返っている。

 レーネはドレスを脱いで湯浴みした後、お馴染みのローブに身を包み、手には洋燈を持って歩を進める。

 カインと交わした会話が何度も頭を過ぎり、思わず部屋を飛び出してしまった。元々寝られない体質だ。

 それでも疲れた体を休めるためには、横になる必要がある。けれど今は心も体も落ち着かず、呼吸さえも乱れている。

 わかっている。自分のわがままで多くの人間を巻き込んでいる。もう後戻りはできない。

 こんな時間にゲオルクを訪れてどうするつもりなのか。彼に剣を突きたてる覚悟はできているのか。

 はっきりとした答えが出せないままゲオルクの自室の近くまで来たが、そこでレーネの足が止まった。

 でも、もしも誰かと一緒にいたら?

 カインと共に途中で会場を離れたので、その後のゲオルクの動向を知らない。もしかすると彼の心を動かす女性が現れていたとしても不思議ではなかった。

 ましてや今日は、遠方から訪れた客人たちも城に多く泊まっている。

 考えを巡らせていると突然ゲオルクの部屋のドアが開き、レーネは驚きで肩を震わせた。

 視線を送ると背中まで伸びた豊潤なダークブロンドの髪に、真っ白な夜着を身に纏った女性が中から出てくる。

 一瞬目が合うと、彼女は顔面蒼白でそのまま目を伏せ、レーネの横を走り去っていった。

 なにが起こったのか。しばし呆然となったレーネだが、再度ゲオルクの部屋に視線を向け、意を決すると中へ足を踏み入れた。
< 95 / 153 >

この作品をシェア

pagetop