愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



けれど何となく気まずい雰囲気が流れてしまう。

最後にもう一度謝ってその場を去ろうとしたけれど、その前に瀬野が口を開いた。


「俺に同情してくれた?」
「……え」

「同情して、俺を川上さんの家に泊めさせてくれないかなーって期待したんだけどな」


何というやつだ。
私の同情心を駆り立てようとしていたの?

本当にやることがズル賢い男だ。


「じゃあね瀬野くん、また後で」


また瀬野の言葉を無視してサヨナラを告げる。
やっぱり彼という人間は嫌いだ。

少しでも揺らいでしまった自分に後悔して、私は教室に向かう。


誰もいない教室は静かで、ひどく冷え込んでいて。
まず初めに暖房のスイッチを入れる。

本格的な冬がやってきた。


12月も終わりが近づいている。
あと1週間もしないうちに冬休みだ。

それはタイミングが良いかもしれない。
冬休みに入れば瀬野と会うことがなくなる。


日が開けば、瀬野も私を諦めるはずだろうと。
これは救われたと思う反面、どうして私は───


『……ないよ、そんなの』

瀬野の言葉が、表情が、その存在が。
頭から離れないのだろうか。


「……忘れて」

余計なことは考えるなと自分に言い聞かせて。
席についた私は机に突っ伏して、ゆっくりと目を閉じた。

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