ストロベリー・バレンタイン
「じゃ、また後でね!」


 颯君は樹君と私に手を振ると、走って何処かへ行ってしまった。


 樹君は私の手を取り、
「連れて行きたい場所があるんだ。こっちに来て、苺」

 すたすたとある方向へ歩き出した。


「…う、うん…?」


 『フルーツ・ティーポット』という乗り物の乗り場へと、私は彼に連れて来られた。


 それは色とりどりのフルーツが、ティーポットの形になった乗り物だった。モノレール式でパーク内をぐるっと一周し、窓から園内を見渡せる様になっている。

「わあ!…可愛い乗り物だね!」

「一緒に乗ろう。ほら、ちょうど苺のポットが来たよ」

 目の前に到着した苺のポットに二人で乗り込み、可愛らしい音楽と共にドアが閉まり、パーク内を回り出した。


 狭い乗り物の中。
 隣に座る彼を、つい意識してしまう。


「…面白いね、ここ。スイーツショップだけじゃ無くて、乗り物まであるなんて…」


「気に入った?」


「うん!すごく!」


 笑った私と目が合うと、彼は少し穏やかな表情を見せた。


「…良かった」


 彼は自然な仕草で私を引き寄せ、
 唇にそっとキスをした。


「…………!」


「………思ったよりもずっと甘い。苺の唇」


 ………………不意打ち!


「……顔、真っ赤になった。…本物の苺みたい」


 青白い炎の瞳が、
 生き物のように動きながら
 私に向かって煌めいている。


「…………!」


 あ、どうしよう。

 心臓が、おかしい。


「…………もしかして、ドキドキしてる?」


「…………してる。すごく」

 
 いつも遠くから見てた憧れの樹君が
 現実の彼になって私に触れて、


 私の反応を見ながら
 悪戯っ子の小鬼の様に
 面白がっている。
 

「…………俺も、ドキドキしてるよ」



「…………本当?」



 楽しそうな、無表情で。



「…………信じられない?」


「だって樹君、何だかこういうの、…慣れてるみたいで…」


 急に彼の表情が氷に逆戻りした。


「…………慣れてるわけないでしょ。キスしたの、君が初めてなんだけど。…そもそも今まで俺、女の子と付き合った事ないし」


 …………え?


「…本当に?あんなにモテてるのに?!」


「全部断ってたから。…ずっと、好きな子がいたし」


「…………!」


「…言わせたいの?…君の事なんだけど」


 …………!!


「3年間俺は、ずっと君しか見てなかった。…………誤解するなんてひど過ぎない?」



 彼は私の体をぎゅっと引き寄せ、
 首の後ろに両手をあてながら



 私の唇を
 味わう様に、キスをした。



「…………」



 私は彼に、謝った。



「…ごめん…」



 もう一度ゆっくりと、甘い甘いキス。



「…………なんの『ごめん』?」



「…………誤解して…」



 彼は角度を変えて、
 また長い長い、キスをした。



「…許して欲しい?」
 


 ……刺激が強すぎる!



「………うん」



「…じゃあ俺の、言う通りにして」



 乗り物がその時、降り口に着いた。



「…『言う通り』…って?」



 私は彼の後をついて行った。



「後で話す。約束して」




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