あれから数日後、私は実家に帰る準備をしていた。

「……本当に帰るのか?」
「はい」
「せめて、送らせてくれ」

 夏久さんが苦しげに言うのを、首を振って拒む。

「優しくしないでください」

 そう言うのはつらかったけれど、きちんと告げる。
 ――あの日、夏久さんは遅れて私を追いかけてきてくれた。

「百瀬とはなんでもない。親に決められただけの相手だから」

 すぐに言ってくれるところが夏久さんの優しさだろう。
 その詳細を聞こうと思えるほど、私に余裕はなかったけれど。
 夏久さんは泣きじゃくる私を必死に慰め、落ち着くまでずっと寄り添ってくれた。

「私、自分のことばっかりで夏久さんのことを考えてきませんでした。もっと早く気付くべきだったんです」
「それを言ったら俺の方が悪い。君はよく気遣ってくれていたよ」
「そんなこと、全然」

 言葉が喉奥で詰まって最後まで言えなくなる。
 本当に気遣えていたなら、自分から身を引くべきだった。
 夏久さんは私を愛しているわけではないのだから、本当に好きな人と一緒になれるようにするべきだったのだ。