クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
・寂しい新婚生活

 数日後にはもう、私は一条雪乃になっていた。
 連れてこられた夏久さんの家は、ちょっと想像を超えている。

「ひとり暮らし……なんですよね」
「それがなにか?」
「……いえ」

 相変わらず夏久さんの態度は冷たい。それも仕方のないことだと頭でわかっていても、やっぱり優しかったときを知っているせいで辛かった。
 オートロック式のマンションはほかにも最新設備を取り揃えている。
 しかも夏久さんの住居はその階のどこ、というわけではなく、最上階のすべて、だった。

 本来ならいくつかの家で分かれている場所が、最上階だけは繋がっている。
 そんな特殊な場所だからか、エレベーターで最上階へ行こうとしても通常の行き方では行けない。というより、そもそも最上階のボタンがない。
 エレベーター内にてカードキーを挿入し、さらに通常階のボタンを暗号のように押すことでようやく最上階へ行くことができるのだ。

 それだけでもわけがわからなかったのに、いざ家に入ればまた目が回ってしまう。
 玄関は大理石で作られていて、ひとり暮らしなのに靴箱のサイズがちょっとしたタンスほどある。中にどれだけ靴が入っているかはさすがに確認できなかった。
 廊下を歩いてリビングへ向かうと、本当にリビングと呼んでいいのか首をひねりたくなるほど広い空間が現れる。
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