東雪乃(あずまゆきの)、二十七歳。
 私は自覚症状ありの箱入り娘で、その年齢にしては世間知らずな方だと思っている。
 なぜそうなのかと言えば、母が早くに亡くなったというのが一番大きい。男手ひとつで育てた父は、私を危険なものから徹底的に守ろうとした。

 門限は二十二時まで。男の子とふたりきりで遊ぶのは禁止。繁華街に行くなら、一時間ごとになにかしらの連絡を入れること。
 揶揄する友達も少なくはなかったし、私自身も厳しすぎると思っている。
 けれど、父を悲しませたくなかった。やりすぎだと思っても、それで安心してくれるなら構わない、と。

 こうして無菌培養で育てられてきた私は、二十七歳にもなってまだ実家暮らし。仕事があるからと多少融通をきかせてもらったものの、門限という概念自体はいまだ健在の生活を送っている。
 それが変わったのは――今日。

 決して広くないワンルーム。最低限の家具はベッド、本棚、小さな冷蔵庫に折りたたみ式のテーブル、とりあえず服を詰め込んである段ボール箱。
 そう、私は今日からここで一人暮らしをする。