エリートパイロットの独占欲は新妻限定
大失敗の初夜


「もう入籍したとか信じられないんだけど!」


憤った声をあげたのは例のごとく佐奈だった。

引っ越しはいよいよ明日。ほとんどの家具類は先に処分が終わり、あとは智也と暮らすマンションに運ぶものが段ボールに詰められて部屋の片隅に積み上がっているだけ。ガランとした家は、生気を失ったように静かだ。

佐奈はそんな場所に遊びに来ていた。自宅で過ごす最後の晩餐に付き合ってあげると言って、大きなピザ持参だ。
処分してしまったため、荷物の入った段ボールがテーブル代わり。飲み物も紙コップという色気のないものだ。


「報告が遅くなってごめんね」
「ほんとだよー。結婚する気はなかったくせに。全然乗り気じゃなかったじゃない」


恨み節がさく裂だ。


「……ほんとにごめんなさい」


言い訳をさせてもらえるなら、大手の建設会社に就職が決まり、その準備で忙しい佐奈を煩わせたくなかった。なんでも就職前に任意の通信教育があるらしく、それに励んでいると言っていたからだ。

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