もう一度あなたに恋をする

気づいた気持ち

あのケガをした日以来、久瀬さんはよく私の頭を撫でるようになった。
頼まれた仕事を仕上げると『おつかれ』と言いながらポンポン、集中し疲れ首をコキコキさせていると通りすがりに『ムリするなよ』と言いながらポンポン。

容姿端麗、仕事もできて優しいパーフェクトな人の事をこれで気にならない人がいれば教えてほしい。
私は出会って二か月も経たないうちに彼の事を好きになってしまった。
でもだからと言って気持ちを伝える気はない。
仕事でも尊敬できる久瀬さんと気まずくなって一緒に仕事が出来なくなるのは嫌だ。特別な存在として彼の横に立てなくても仕事では彼を支えたいから。


東京に移動になって四か月。八月の夏真っ盛りでダウンしそうな時期に大きなプロジェクトが立ち上がった。これは私が移動になる前から決まっていたものらしいが、それが本格的に動き出したのだ。都心から少し離れた町に新しく街を造る。うちともう一社、花園建設との合同プロジェクトらしい。

当社からメインメンバーに選ばれたのは久瀬さん、森谷さん、寺川さんと夏樹さん。それと隣チームのリーダー滝沢さんと高木さん。メインアシスタントは立花さん。もちろんチーム久瀬の他のメンバーも会議などに参加はしないが業務のお手伝いする事はたくさんある。

高校生の頃夢見た街づくり、森谷班から二名のメインメンバーが選ばれたし、最近では久瀬さんから直の仕事も任せられるようになったのでメインアシスタントに呼ばれないかと少し期待していた。何より大きな仕事をする彼を傍でサポートしたかったから、ちょっとがっかりだ。


※ ※ ※


「はー、疲れた。」

「お疲れ様です。夏樹さんこれどうぞ。」

「これ、朱音の家で飲んだ美味しいジュースじゃん!やった!」

「社長さんが暑中見舞いって、たくさん送ってくれたので。」

ここ数日プロジェクトの会議が連日入っている。
メインメンバーはプロジェクト以外の仕事も当然抱えているわけで朝は定時よりも早く出社し仕事をしている。
だから少しでもリフレッシュしてもらえたらと思って母の知人の社長さんが送ってくれたマンゴージュースを持ってきた。

「あっ、松本だけずるい!!九条さん俺にはー?」

夏樹さんに出したマンゴージュースを見て森田さんがすねた顔をしている。

「マンゴーですけど大丈夫ですか?」

「大丈夫!」

「寺川さんと久瀬さんも飲まれます?」

寺川さんは懐いたワンコのように首を縦に振っている。久瀬さんもコクンと頷いてくれた。

「立花さんは?」

「けっこうです。」

同じチームのアシスタントなのに相変わらず立花さんとは仲良くなれない。
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